解決編

 私がこの違和感を紐解けたのは、轆轤首(もしくは抜け首)と称せられる怪談の知識である。轆轤首という妖怪は、どのようにして想像の産物となったかご存じだろうか。


 一説によると、朝目覚めた人が自身の口臭に違和感を覚え、さらに行燈の油の減少に気づき、自分の首が伸びてこれを飲んだと考えたのが由来になっているそうである。実はこの怪談は夢中遊行の心理を象徴するもので、眠りながらも喉の渇きを覚えた人が、(二重の意味で)夢中で水を求めてそこらの油や下水を飲むのだそうである。


 もう優れた読者はお気づきになったであろう。母の異常な口臭、仏間の仏壇の油の減少、母が物音の証言をしていないこと。これらが導くのは母の夢中遊行でなかろうか。襖一枚しか隔たりのない処を寝床にしていた母は容易に仏間に移動することができた。毎夜毎夜描きかけの絵に筆を進めていたのは、亡き父ではなく夢中の母であった。親愛なる夫を亡くし、一人で子を育てる覚悟を背負った母に大きな心の傷があったことを想像するのに難くない。既に天に召された母に文句をつける者はいないであろう。生きていたとしても、当時心神喪失状態であったのだから、責任能力のない母は何ら罰されることはない。ああ、なんて美しい神話なのだろう―。


「-という、お話じゃ。満足できたかいなア」

「えらい怖あてねむれんわ!あんさ、そのかきかけの絵ってなんの絵じゃったのん?」

「ああね、あたいも気になって、母ちゃん亡くなるギリギリ前に聞けたんじゃけど、父ちゃん、私の絵エ描こうとしてたらしいのオ」

「それは変じゃのう。じゃって、そいならおばあちゃ、その絵がいつかヒトの絵じゃって気づくけん。なんで気づかんかったのん?」

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ててなしご 蒼星絵夏 @Aohoshi-414731

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