39. おれは未来をもう黙らない
※本編、ストーリーの性質上、AIの文面を使用している箇所があります。
「方法はAIに聞くのが手っ取り早い?」
今のショースケの症状はこんな感じ?
『会話が通じない
寝てても攻撃してくる
ずっと寝てる。
どういう状態?
』
しばらくすると、回答が返って来た。
『安全確認が一度もオフになっていないように見受けられます。
近いのはこちらです
——重度のトラウマ反応(PTSD)+解離状態
受診をお勧めします。
』
トラウマに、解離状態。しかも重度。医者じゃないと無理なやつだろ。
それにこれって……
待てよ、ショースケの症状が
タクトが小さく何か呟いた。「やっぱりか」と言ったように聞こえた。
スマホを見るタクトの表情はここからだとわからない。けど、AIが弾き出した内容に落胆している感じはしなかった。指を止めたまま、微動だにしない。
「受診。……やっぱ医者に任せた方がいいんじゃ?」
タクトは画面に乗せた指を震わせ、少しだけ頭を上げた。
こちらは向いているものの、視線はおれを通り越して更に先のどこかを見ているみたいだ。
「……さっきも言ったけど、病院は避けたい」
ほんの一瞬だけ、目が合った。
そこでようやく気がついた。
なんでおれ、こいつのやること、こんなに気にしてるんだろう。
タクトは、一拍置いてから小さく首を振った。
「条件足さなきゃ」
タクトが指を滑らせ、再度AIが答えを探しに行く間、僅かな沈黙。
『
……一言で言うと
脳が、戦場から帰ってきていない状態です。
』
空気を読んだように回答が返ってきた。
ちょっと助かった。
「戦場って……そんな話入れたっけ?」
「入れてないよ。攻撃って単語に反応したのかも」
ちょっと柔らかい口調が返って来た。
これだよ、事務的な話をする時はそこまで緊張しないのに。
時々、思い出したように突き放してきて、透明人間になったような気にさせられる。
未来の話が地雷なのはわかった。けど、どれがタクトにとっての未来なのか、おれには区分けが付かない。
何か言う度に空気が澱まないか、つい気にしてしまう。
多分おれ、あいつの機嫌を損なって、寝る場所を手放したくないってどっかで思ってんだ。
だからって、黙っていたら何も進まない。
野宿? 上等だ。
……顔色を見るのはもうやめだ。
『
やると逆効果
• 説得、理由の説明、正論
• 反省させる
•
…
』
うわ、説得も正論もダメって、どうすりゃいいんだよ。
医者じゃないから診断じゃない、という注意書きの後、並べられた文量に軽く眩暈がする。
でも、やることがある方が余計な事を考えなくて済む。
積極的に質問を打ち込むタクトを見る限り、ショースケを何とかしたいのはこいつも同じだろうし。
タクトが指を滑らせると、『やると逆効果』の続きが並んだ。
『
• 「落ち着け」と声をかける。
• 無理に起こす、無理に寝かせる。
』
「落ち着けって声掛けもアウトじゃん」
こういうの、先に調べなかったのか?
おれが顔に出していたのか、察したようにタクトが呟く。
「使う気になれなかったんだ」
「スマホ?」
「AIと検索。いまいち結果が信用できないんだよね」
じゃあ、何なら信用するっていうんだ?
『
薬以外では、こちらはいかがでしょう
段階的に記載します。
① まず、刺激を減らす
② 意味のない行動を入れる(重要)
③ 身体を使うが、戦わせない
④ 睡眠を“守る”
……
』
ここまで読んで、やっぱりおれは疑問が拭えなかった。
さっきタクトに振った
その話をすると、こいつはまた不機嫌になる。
おれが通った日がタクトにはまだ来ていない未来だからややこしいんだ。
でも、もう過去とか未来とかどうでもいい! 使える情報は全部使う。
「ショースケの症状って、
途端、タクトの指が止まった。
ちょっと驚くような目をした後、言葉が返る。
「……いつ聞いた話?」
「おれが以前に聞いた話」
タクトが眉根をピクリと寄せた。
いやな空気感。圧されないようにおれは続けた。
「未来の話するなって言ったけど、おれにとっては全部、
タクトが低い声を落とす。
「後の行動や、思考がズレるって言わなかった?」
「ズレるとしても、知っちゃったものは取り消せないんだよ」
ただでさえ頭ん中が過去と未来でごちゃごちゃなのに、これ以上考えてたら何も話せない。
「話した順序なんて覚えてられるか。でも、ショースケを回復させたいなら、手札は全部出した方がいいに決まってんだろ」
タクトは呆気に取られたように口をポカンと開けた。
「……やっぱキミ、P.J 《6月から来た矛盾》だよ」
ため息に混じって呆れたような声。
「そこはサードに負けとけ。で、
強引に話題を曲げる。これ以上口論もしたくない。
タクトは渋った後、指を無意味にスクロールさせながら言った。
「元々持ってる症状を肥大化させるみたいなんだ。何もなければ時差ボケと変わらないよ」
あ、だからそれぞれ症状が違うのか。
「ショースケは元々トラウマみたいなものを持っていて、
「そういう状態だと思う」
となると……。
「じゃあ、トラウマの治療で合ってそうだな。……起こしちゃダメなら、他にどうすりゃいい?」
おれの言った事を、タクトはAIが回答しやすいように変換して打ち込んだ。
『
……無理に起こすことは推奨されません。
この状態では、外部からの覚醒刺激は
回復ではなく防衛反応を誘発する可能性が高いためです。
』
防衛反応。これが働いたのか。
今日のアレ、顔を覗き込んだのは失敗だった。
更に、スクロールを続ける。
『
覚醒を促さず、覚醒しやすい環境を作ることは可能です。
• 音を一定に保つ(完全無音も避ける)
• 光を急変させない
• 人の気配を「予測可能」にする
(急に近づかない、決まった位置にいる)
』
起きやすいように環境を整える……ってことか。
「カーテンを閉めて……エアコンも掛けっぱなしにすれば、光と音はいけるかな」
タクトは部屋を見回しながら、ぶつぶつと呟くと、スマホに指を滑らせた。
「②の意味のない行動もみてみよう」
『
意味のない行動を入れる
• ゲーム
• マンガ
• 映画
• だらだら食べる
• 無目的な外出
』
「どういう理屈?」
スクロールすると、下から理由が出て来た。
『脳に「今は判断しなくていい」と教えるため。』
ちょうどAIの無料回数を使い切ったらしい。
以降は的外れな答えしか返さなくなった。
「ここまでかな。食器洗ってこよう」
タクトが腰を上げた。
◇◇◇
料理はレイが作って、タクトは皿洗い係。そんな役割分担らしい。品数が多い分、皿の量も多い。
おれは洗った食器を布巾で拭きながらレイにも調べた話を伝えた。
「映画に、食べること?」
「あと、ゲームにマンガ。……何にも考えずに遊べってことか?」
「いいなー、私も食べたい」
そういえば——ショースケは未来でもマンガ読んでたってどっかで……?
「あいつ、マンガ好きじゃなかったっけ?」
タクトの手が止まる。
「そうだけど」
緊張したような声。
……どうやらまた地雷を踏んだらしい。
でも、もう遠慮しないって決めた。
「……そういうヤツなんだよおれは。慣れてくれ」
タクトは一度こちらを見ると軽く息を吐いた。
「考えとく」
そう小さく聞こえた気がした。
お構いなしに、おれは話題を切り替えた。
「どれも、まともに起きられるようになってからじゃないとできない事ばかりだな」
そういえば……。
夜はここにいられないから、この後、朝に
今のショースケって昼は起きてるのか? 眠ってるなら、おれがやれる事ないだろ。
それ以前におれ……10
いや、絶対明日に戻ってやる。
ファインダーの向こうで、僕が僕を奪い返す KaniKan🦀@ヨムはカクヨムコン優先 @systemkkan
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