【収蔵品番号:No.028《門のない場所》】

◆送付元:中央記録課・第五補完施設

文書番号:CPF5-028-P


【搬出記録】

品名:油彩風景画(単独扉)

搬出日:2025年7月26日(金)午前7時49分

搬出責任:記録課職員 R-06

記録事項:

画面中央に、木製の古びた扉が1枚だけ立っている。

扉には壁や枠が存在せず、背後には何もない荒涼とした地形が広がる。

地面には影があるが、扉自体に支柱や固定具は見当たらない。

空の色調は鈍く、周囲に植物や建築物は見られない。

風景の描写は写実的ながら、扉のみ異質な存在感を放っている。

作者・年代は不明。


【添付メモ(キャンバス裏より発見)】

「ドアに入っていく人を見た。」

※筆跡は整っているが、使用されているインクは経年劣化により一部褪色。


【非存在性ショップ 店主の日誌】2025年7月26日(金)午後4時11分

今週も例の時間に、あの段ボールが届いていた。

中身は一枚の風景画だった。広い、何もない地面に、一枚だけ立つ木の扉。

見た瞬間、変な感覚に襲われた。足が地に着かないような、でも目だけが扉に吸い寄せられていくような──そんな奇妙な不安定さ。

扉はどこにも繋がっていないはずなのに、向こう側があるような気がしてならない。

裏に貼られていたメモにドアに入っていった人がいることが書いてある。

この扉は、ただ立っているだけだ。それだけのはずなのに。

あまり長く置いておくのは良くない気がした。

そう判断して、販売に回すことにする。購入者には、十分にご注意いただきたい。


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配送記録:非存在性ショップ 店主 @s_alan

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