エピローグ:私は私のままでいい

朝の光がカーテンの隙間から差し込む。

和子はベッドからゆっくり起き上がり、洗面台の前に立った。

鏡の中には、すっぴんの自分がいる。

頬には少し寝癖の跡、まぶたはまだ少し重たくて――

でも、不思議と穏やかな顔をしていた。


目を見つめる。

唇のかたち、眉の線、頬のふくらみ。

すべて、これが「私」。


「どうして私は美しいのに、苦しかったのか」

かつてそう思っていた。


でも今はちがう。

美しいかどうかは、きっとどうでもよかったのだ。

ただ、そのままの自分を好きになれなかっただけ。

誰かの言葉で、自分を閉じ込めてしまっていた。

その檻を、自分の手で開けていいと気づいた。


和子は鏡の前でふっと微笑んだ。


「私は私のままでいい」


その言葉は、誰にも届かなくてよかった。

自分に届けば、それで十分だった。

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誰も知らないこと さわこ @sawakon31

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