響振

Kei

響振

誰もいないのに人の声が聞こえる。しかし膨張したような…間延びしたような響きだ。何を言っているのかわからない。


それは突然の出来事だった。


はじめ、人々はどこからともなく声が聞こえてくることに文字通り耳を疑った。

そして次に鳥の鳴き声が、バイクの、自動車の音が延々と耳に残ることに戸惑った。


人々はその場に立ち尽くした。


18時を知らせるメロディが響き続けた。



ごオー… … …



飛行機の轟音がそれをかき消し、空気を振るわせた。


人々は思わず、耳を塞いで屈みこんだ。



まもなく、都市部には、海からの波の音が津波となって、山からの木々のざわめきが雪崩となって押し寄せた。


消えることのない音はぶつかり合い、反響を繰り返した。


そして突然、無音になった。

人の鼓膜が耐えられなくなったのか、それとも知覚できる音域を越えたのか…


人々は不安の中、無音の世界に立ち上がり、そして見た。自転車が倒れた。ガラスが割れた。そして…建物が震えている。


音は振動となって世界を覆った。


ビルは、街は粉粉になった。そこにいたに。何もかも…




——よし。これでいい。


我ながら、なかなかなアイデアじゃないか?「音が消えない世界」だなんて。


疲れた…。 ん? なんだ、外がうるさいな。


俺は窓を開けて外を見た。


誰もいないのに人の声が聞こえる。しかし膨張したような…間延びしたような響きだ。何を言っているのかわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

響振 Kei @Keitlyn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説