能力卸売業者 [ショートショート]

アケビ

能力卸売業者

私はとある屋敷の前に、一人たたずんでいた。

その建物はどこか威圧的で厳格な雰囲気を纏っている。

インターホンを押すと、玄関のロックが解除され中へと通される。

「どうも、よく来てくれました」屋敷に入ると中年の男が出迎えてくれた。

「いえいえ。今日はよろしくお願いします」

私が頭を下げると彼は横にあった扉を開く。

「どうぞ、こちらの部屋へ」私は玄関から入って右手の部屋へと案内された。


この男はとあるサービスで一部の人間の間で話題の人物だった。

このサービスというのは「自分の能力を高値で売らせてくれる」というものだ。

能力の上限を100パーセントとして、そのうち何パーセントかを他人に譲渡する。「能力」とは記憶力や知力、スポーツの才能まで多岐にわたる。

売れた金額から手数料を引いた額を受け取ることができるというわけだ。

私は視力の一部、10パーセントを売るためにこの男に会いに来たのである。


その部屋には発電機のような外見の巨大な機械があった。「それをかぶってください」男は太いコードで機械につながったヘルメットのような装置を指さした。

装置を装着すると鎖で椅子に拘束された。私はおもわず顔をしかめる。

しゃべるなとは言われていない。このことについては尋ねてみてもいいと思う。

「どうして体を固定するんです?」「ああ、この装置から出る電波にアレルギー? みたいなものがある人がいてね。君は大丈夫だろうが一応、ね」

男はそう言うと曖昧に笑った。

「なるほど……」


男が機械についているボタンを手慣れた手つきで操作すると

機械は大きな音を立てて動き出した。

ボタンの操作を終えると男は申し訳なさそうに口を開いた。

まだ何か言うことがあるのか、要領が悪いな。そう思いつつ彼の言葉に耳を傾る。


「悪いけど、君の能力、全部貰っちゃうね」

思ってもみなかった言葉に、私は戸惑った。「あの、どういうことですか?」

私は押し寄せる不安感を抑え男に問う。

「君には申し訳ないけれど、

すべての能力の100パーセントを買ってくれるっていう人がいてね。

通常の3倍の価格で。事前にもらったデータでは君が一番よさそうだったからさ」

私はすぐに言葉の意味を理解した。

「ふざけるな!」

自分の利益のためにはこんな卑劣な行為も厭わないのか。

今すぐに逃げ出したかったが私にできるのは目の前の男を大声で謗ることだけであった。


「まあ、君の気持ちもわかるけどね、さようなら」

私の意識は、そこで途絶えた。

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