もういくつ寝ると・・・
若奈ちさ
9回目の夢の話
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
スマホのアラームが鳴って布団から這い出る。
音もなく降り続いていた雪も、ようやくやんだようだった。
夜が明け、朝日が積雪に反射しているのか、まばゆいばかりの光が立て付けの悪い雨戸からもれている。
想像していたよりは寒くないが、一枚上着を羽織り、前を綴じて身をすくめた。
寝床の雨戸を開け、茶の間の雨戸も開けていく。
降り積もった雪がこんもりとすべてを覆い尽くしていた。
まっさらな雪。
未開拓のような白銀の世界にふと足跡を見つけた――のは夢の中でのできごとだ。
庭を突っ切るように残っている足跡がひと筋。
小判型でどちらの向きに歩いていたのかはわからないが、少なくとも獣の足跡ではない。
おかしいとそのときは思った。
あの吹雪の中、訪問者があったとして。
家の出入り口のほうへ向かっているならまだしも、生け垣を跳び越えて庭に侵入し、庭を横切ってまた生け垣を跳び越えて出て行ったように足跡が残されていたのだから。
私は掃き出し窓から身を乗り出し、踏み台に置きっぱなしになっているスリッパを雪の中から探しだした。
どうにも気になって跡をたどらずにはいられなかった。
生け垣は背丈よりも高くて向こう側が見えない。私はぐるりと反対側に回って足跡を探した。
するとひと筋の足跡を見つけた。庭を横切っていた、続きの足跡に違いない。
思っていたよりも雪が深く、つっかけで来たことを後悔していたが、戻るくらいなら進んだ方がましだと足跡をたどっていく。
ほかに誰か通った様子もなく、自宅から伸びる足跡は一直線に続いていた。
隣の山川宅の方だ。隣とはいっても、200mは離れた場所にある。
なんとなく胸騒ぎがして急ぎ足になっていく。
足跡は乱れることなく等間隔で敷地内まで続いており、自宅のすぐ脇にある物置の方へと向かっていた。
大きな物置だ。
そのまま軽トラや農業機械を乗り付けられるように開口部分は広く、扉のようなものはついていない。
「山川さん」と呼びかけながら入っていった。
途中まで雪が吹き込んでいたが、打ちっぱなしのコンクリが見えているところまで来ると、軽トラの陰に長靴が見えた。
脱ぎ捨てた靴ではないことがすぐにわかった。
人が倒れている。駆け寄ると、山川が横向きになって事切れていた。
私よりずっと年かさの山川には持病があったようだった。
この寒さだ。そんなこともあるかもしれない。
まるで、迎えが来たかのような奇妙な足跡。
そんな夢を見るのも9回目だった。
一番始めは小学生の時だっただろうか。
直射日光で焼けたように熱かったプールサイド。打ちっぱなしのコンクリートに濡れた小さな足跡があった。
それをたどると同級生がプールで溺れていた。
あるときはぬかるんだ土の上。
あるときは海辺の砂浜。
あるとはデパートのトイレへと向かう血濡れた足跡――
夢に現れる死に神の足跡。
それは私に向かって来てはいなかった。
いつも私の目の前を横切っている。
たどった先にある光景、それはいつも正夢となった。
山川のことは、私が見つけてやらないといけないだろう。
気の重さも感じつつ、不謹慎ながら、自分ではなかったとホッとしているのであった。
もういくつ寝ると・・・ 若奈ちさ @wakana_s
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