六道輪廻【KAC20254・あの夢を見たのは、これで9回目だった。】第四弾

カイ 壬

六道輪廻

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 輪廻転生を繰り返し、まず人間界から地獄界へ落とされ、すでに餓鬼界、畜生界、修羅界を巡っている。しかしいつまで経っても天上界へたどり着かないし、人間界へ戻ることもなかった。

 どの六道に落とされても、最後はいつも決まって同じ夢を見る。

 最後に襲いかかった警察官に心臓を撃ち抜かれた瞬間の夢だ。


 確かに強盗殺人を行なった俺も悪いが、いつまで経っても天上界はおろか人間界にさえ戻れないのには納得がいかない。死ねば仏ではないのか。

 反省し悔い改めているはずだが、それでも仏様は俺を許してくれない。

 ただ、地獄界から一度でも修羅界までは上がれているので、俺の反省の意志もじゅうぶんに伝わっているはずだ。それなのになぜ俺はこんな苦労をし続けなければならないのか。


 頭の中に声が聞こえてきた。


「お前はまだ心の底からの反省ができておらん。芯から謝罪の意志を示さないかぎり、人間界へと戻ることはまかりならん」

 声の主が俺を監視している仏様なのだろう。


「俺は三悪道の苦界に何度も落とされている。これは仏様が私をいじめているのではないか」

「きちんと反省ができていないから、降格されるのだ。最後に見た景色は今もお前の夢となって現れるのであろう。それこそが芯から悔い改めていない証拠だ」

 あの夢は俺が悔い改めれば見ることもなくなるのだろうか。


 俺がこれまでに襲撃してきた美女たちを忘れることなどとてもできない。その思いが悔い改める心を阻害しているのだろうか。

 その戒めとして拳銃で撃たれて人生を奪われた記憶が夢となって現れるとでもいうのか。

 であれば、美女たちを綺麗さっぱりと忘れ去らねば人間界に戻ることすら叶わない。

 まして仏様の住む天上界で暮らすこともできないに違いない。


「お前はまだ魂が穢れている。穢れを祓い、執着を捨て、無になるのだ」

「無とはなんだ」

「他人から教えられたものは身についたとはいえない。自分で考えるのだな」

「ヒントくらいないのか」


「何も考えるな。何も感じるな。心を波立たせるな。その状態からなにを得るのか。考えてみるがよい」

「考えるな、はわかる。だが、感じるなとはどういうことだ。昔映画スターが劇中で『考えるな、感じろ』と言っていたはずだが」


「その者はすでに天上界で暮らしておる。そもそも『考えるな、感じろ』はまだ底の浅い考えなのだ。理性を抑制して欲望のままに生きるというお前の考え方とも大違いなのだ」


「じゃあ俺はどうすればいいんだ。どうすれば人間界や天上界へ行けるんだ」


 仏様の声がいったん止まった。


「そうじゃな、まずはなにかひとつ善いことをしてみよ。悪意に満ちた地獄界や畜生界でも、心がけひとつで善いことはできる。ひとつできたらふたつ三つと増やしていくのだ。そうすれば徳が積める」


「徳を積めば、あの夢を見ることもなくなり、人間界や天上界へ行けるのだな」

「そうしてやってもよい。では精進するのだな」


 仏妻の声が途絶えると、俺は考えに浸ろうとした。

 しかし善いこととはなにかが思い浮かばない。


 そういえば仏様は考えるな。感じるなと言っていたはずだ。その場に直面してすぐに善いことができるようになればよいだろう。

 未来の安寧に向けて、今日も六道輪廻で異なる世界へ飛ばされていくのだった。




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