Good by Dreamer

希結

第1話

 

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「──目が覚めた時、そう思ったんですね?」


「そうだったと思います、はい。正直よく覚えてはいないんですけど……」


「大丈夫ですよ。断片的でも構いませんので、思い出してみてください」


「はい」


 私は向かい合って座ったバインダーを持って白衣を着た人に返事をして、夢について思い出していった。


 1回目は、高熱でうなされた時。

 2回目は、意識が朦朧とした時。

 3回目からは、あまりよく覚えていない。


 なのに、私は目が覚めた時「これで9回目だ」と確実に感じていたのだ。


 それはなぜだろうか。


 夢の内容は、いつも同じ。

 万華鏡のようなドームの空間に閉じ込められ、ピエロが私に話しかけてくるのだ。


 夢の中の私は、声を出すことが出来ない。


 しばらく時間が経ってから、ピエロが一言だけ呟く。


「マタネ」


 それが合図となって夢は終わりを迎える。つまり、ピエロが別れの挨拶をしない限りはずっと、私はその場にいないといけないのだ。


 10回目、また同じ夢を見た。

 最初は怖く感じていたこの空間も、10回目となると私は変に慣れてしまっていた。


 そんな私にピエロは言ったのだ。


「ナレチャダメダヨ」と。


 ピエロは心の中まで読めるのかと、私は酷く驚いた顔をしていたと思う。


 いつも無理やり作った笑顔のような顔のピエロが、なぜか今回は本当に笑ったような気がした。


「バイバイ」


 ピエロからその言葉を聞くのは、最初で最後になった。


 いつもと違う別れの挨拶だったのに、私は目を覚ましたのだ。


 それから同じ夢を見なくなった。

 数日後「明日で退院ですね」と突然告げられた。



「──今でも分からないんです。ピエロの存在も、同じ夢が繰り返された意味も」


「記憶が曖昧なんですね」


「はい、すみません……」


「いいえ、充分ですよ。貴重なお話をありがとうございました」


 私は建物の外へ出た。

 ぼんやりした気分は消え去り、太陽の光に当たるのも久しぶりに感じた。


 スマホにも何日かぶりに触れる。電源をつけた途端にやってくる沢山の通知に驚いてしまった。


「……あれ?」


 通知から分かるのは、私がどこにいるのかと心配するメッセージや不在着信ばかり。


「私、なんでこの施設にいたんだっけ……?」



 

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