素敵な妖精物語

ガラドンドン

素敵な妖精物語

あぁ、向こうで子どもがご飯を食べていますけど、そちらはあまり気になさらないでください。

それでは、私の弟の事を話しますね。


最初弟が産まれて来た時、この子は妖精さんが連れてきてくれたんだ、って思いました。

昔からずっと、妖精さんが出て来る御伽噺おとぎばなしが好きだったんです。

つぶらな瞳に、ふわふわの毛。真っ赤な頬に、きゅっと指を掴む可愛らしいお手々。

それに、


はい。私の弟である夭逝ようせいは、産まれた時から人間ではありませんでした。

この子が最初に口にしたのは、母親の母乳ではなく助産師さんの指なんですよ。


母親も父親も戸惑っていましたが、家はそこそこ名のある旧家でしたので。助産師含め、色んな所にお金を握らせて。弟の事は無かった事にしたようでした。

弟は誰の目にも触れないように、家の奥の物置に閉じ込めて。可哀想ですよね。

なので、私だけは何度も人目を忍んで、弟に会いに行っていました。

一緒に玩具で遊んだり、夭逝が欲しがったらお肉や動物を持っていったりとか。


……あれ?本当は怖くて、一度も会いに行かなかったんだっけ。まぁ、良いでしょう。


えーっと。そう。弟が何処から来たのかは分かりません。

何かの先祖帰りだったりするのか、母の胎の中で妖精さんとかに取り換えられてしまったのか。

詳しくは分かりませんが、妖精さんに取り換えられたのなら良いなって思うんです。

私、妖精さんって大好きですし。弟は、こんなにも可愛らしいんですから。


ほら、見てください?私の顔よりも大きい、真っ黒なおっきいつぶらな目。白い所が全くなくて、宝石みたいに見えますよね。

ながぁいこの白い毛は、ふわふわしていて気持ち良いんですよ?頬っぺたはがパクパクしてて、触れるともちもちしていますし。

指は今じゃぁ、人の身体なんて簡単にもぎとれてしまいます。

羽も随分と大きくなったものでして。広げるともう、この部屋には収まりきらない位なんです。


はい。御覧のように、弟はすくすくと育って行きました。

両親や家の人間はそれを恐れたようでして。ある日、まだ今より小さかった夭逝を殺してしまおうとしました。食べ物に毒を混ぜて、殺そうと。

馬鹿な親ですよね。妖精さんに、毒なんて効く訳が無いじゃないですか。


弟は怒って、両親と家の人達みぃんな。殺してしまいました。

怒って、は少し違うかもしれませんね。その時の夭逝は、嗤っていたように思いますし。

バカな人間達に、丁度見切りをつけていたのかもしれません。潮時だったのでしょう。


妖精さんは、意地悪をした人間には報いを与えますよね。そう言う事なんだと思います。みんなみんな、あっと言う間に細かいお肉になって行きましたよ。本当はいつでもそう出来たんでしょうね。


私も、夭逝には色々な事をされました。両親達を殺しただけじゃあ気が済まなかったみたいで。

身体や頭を弄られて、こねくり回されたり、夭逝の子どもを産んだり。

嬉しかったですよ。妖精さんも、夭逝の事も大好きでしたから。


ううん、嫌だったのかな……?凄く怖くて叫んで……?そんな筈無いですね。


ともあれ、私だけは殺されませんでした。夭逝は、弟は、私だけ特別扱いしてくれたんです。

それで、私分かったんです。親や、お手伝いさん達の血を全身に浴びてながら。


あぁ、これって御伽噺Fairy Taleなんだって。

弟は、素敵な妖精の物語になる為に生まれて来たんだって。私はその語り部に選ばれたんだって。

例えば、貴方の場合はそうだな。悪い人を妖精が退治して、沢山のご馳走に変えてしまいました。なんて言うのはどうでしょう?


嘘ではありませんよね。実際これから、夭逝達のご馳走になる訳ですし。

前回の人は綺麗なお召し物になりましたよ。ほら、今夭逝が羽織っているのがその人の皮です。


え?自分は悪人では無い?やだなぁ。知ってますよ?


……どうして自分に、その話をしたのか、ですか。

簡単ですよ。御伽噺には、語り部がいますよね?

語り部がいるなら、聞いてくれる人がいないと。だから、私は皆さんに毎回、同じ話を語らせて頂いています。


とは言え、その話ももう終わり。

今回もそろそろ、めでたしめでたしで終わらせましょうか。

あぁ、暴れないで?絞め方を間違えると、より苦しむ事になるのは貴方の方なので。


大丈夫。貴方の死も、素敵な御伽噺Fairy Taleになりますよ。


──


夭逝、美味しい?良かった。貴方が喜んでいるのなら、このお話はそれだけでハッピーエンドなんだから。

後で子ども達にも、ご馳走を食べさせてあげましょうね。


ほぉら。めでたし、めでたし。


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