『走れメロス』は、言わずと知れた太宰治による名作でしょう。教科書などで読んだという人も多いはずです。学生の頃、単純な男・メロスの生き様に笑ったり泣いたり突っ込んだり……え、「俺」?
なんとこの物語、『走れメロス』の中に、「俺」というどこかで見たことのあるような男を放り込んでしまったのです! その結果巻き起こされるのは、読者の腹筋を崩壊させるような爆笑必須の展開の数々。そう、『走れメロス』と「俺」という、誰もが予想しなかった——というか想像すらしなかった——コンビネーションが、『メロスは激怒したが、俺も大概キレてる』という名作を生み出したのです。
「俺」は、いい歳して引きこもり、長年世話をしてくれた母の死に直面し、まず向かった先はアニメショップ。端的に言ってクズです。しかし、こいつのナイーブな内面にはちょっと共感してしまう、ありふれたクズさなのです。なんかもう他人事に思えないこの男が、メロスのようにカッコよく生きられずとも、物語の終盤では成長を見せてくれます。そこで読者は、腹筋がねじれそうな爆笑展開からの落差に驚き、うっかり感動してしまうかもしれません。
爆笑と感動のヒューマンドラマ、『メロスは激怒したが、俺も大概キレてる。』を、ぜひ一読してみて下さい!
「走れメロス」を始めて手に取った時の感動を覚えている。
友情に篤く、困難を乗り越える勇気を持ち、狂おしいほど義理堅い。メロスと言う男は、友人を身代わりに仕立てがちな欠点を除けば最高の男だ。
彼は愚直だが、その行動で王を翻意させた。読者も感動した、お前も感動した。あの時の行き場のない行動力のような何かはどこへ行ってしまったのだろう。その時の瞬発力はどこかへやってしまったまま、俺は大人になった。
この物語は、その時の「意味不明な行動力」を煮詰めたような短編だ。
俺は、メロスとセリヌンティウスに感化され、自らの足で小さな一歩を踏み出す。
あの時に感じた、むやみな行動力が発揮され、さらに一歩進んだ感動を生み出すことができた。
メロスに感化された男に感化された俺は、どこへ向かうのか。
俺もメロスのようになれるだろうか。