恋は叩きつけるもの

青王我

第1話

 最初に観たのはふとしたことで立ち寄った会場でのことだった。


 その人は華々しくて、力強くて、そしてとても綺麗だった。会場は小さくて観客も少なかったけど、そんなことを気にしない様子で張り切っていた姿は、僕のそれまでのささくれた心へ響くには十分だったんだ。


 それから僕は見合う自分になるべく自分自身を考え直すことにした。毎日トレーニングに励むようになったし、食事内容も見直した。もちろん見た目だって大事だ。髪型や肌の手入れなんてそれまで知らなかったし、でも必要なことだから必死で勉強した。


 遮二無二取り組んでいったことだから、同じ事務所に入れると分かった時には歓喜したものだ。


 とはいえ、僕が事務所へ入るころには、あの人はもうだいぶ先の人になっていた。僕みたいな新人と大先輩が同じ舞台に上るなんて考えられないほどに。だからって僕の夢が途絶えたわけじゃない。ひたすらにキャリアを積めばいつかは叶うかもしれないじゃないか。


 華々しい表舞台とは裏腹に、下積みというのはとにかくつらいことばかりだ。血反吐をはくようなきつい練習や、パワハラ一歩手前のしごきで、辞めていった同輩もひとりやふたりじゃない。


 人前で最大のパフォーマンスを発揮するには根性だって必要なことは承知しているはずだったけど、元々気弱な性格だった僕には苦難の日々だった。それでもなんとかやってこれたのは、あの人が同じ道を通ってきたはずだと分かっていたからだ。


 そして、今。僕は同じ舞台に立っている。


 並みいるライバルをかき分け、最後の一人としてようやくあの人の前に立つ栄誉を勝ち取ったのだ。もちろんあの人の前座なのは当然だ。それでも、あの人の新たな一幕を担えるのは背筋がゾクゾクするほどの興奮を覚えるものだ。


「ここで大トリの降臨だァーーーーー!!」


 実況席のマイクがキンキンと会場に響き渡り、次いで大柄で筋肉質な男がマントをたなびかせながらリングに舞い降りた。深紅のボクサーパンツとブーツ、それにマント姿の、まさしく正統派のプロレスラーだ。


「先輩! 先輩は俺のあこがれでした!」


「ようし来い! 胸ェ貸してやるぜ!」


 そしてゴングと共に、僕の生涯最高の恋が始まったのだった。

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恋は叩きつけるもの 青王我 @seiouga

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