「見せない」小説
三丈 夕六
「見せない事」の重要性
創作をしていてある事が腹落ちしたので記録の意味も込めて創作論にまとめてみようと思う。
みなさんは他社の作品を読むときにこんな事を思った事はないだろうか?
・この悪役、悪すぎるだろ。もっと人間味が欲しい。
・主人公以外のキャラクターが薄い。もっと深い内面描写が欲しい。
・戦闘中に死んだ兵士にも家族がいたはずだ。それを描いて欲しい。
・この世界設定、現実に置き換えたら〇〇の問題が発生するはずだ。
・世界設定が甘い。もっと詳細にリアルに語るべきだ。
これはプロアマ問わず他人の作品を読むと発生する問題だ。そこに疑問を呈するとそのファンから「これはこういう作品だから」と言われる事もある。最近この言葉の中にある要素を見つけた。
それが冒頭から言っている「見せない事」である。
これを理解した瞬間、物語は「デフォルメ」によって構成されている事に気が付いた。物語とはテーマやストーリーラインの集合体である。意識的にしろ、無意識的にしろ、そこに描きたいものがあり、テーマがある。それと「見せる物」にミスマッチが起きた時、作品の方向性を阻害したり、面白さをスポイルしてしまう。
例えば
ジャンル:異世界ファンタジー
世界観(作品の雰囲気):明るい、楽しい
方向性:コメディ
面白さ:周囲からの期待と小心者主人公のズレによるコメディ要素
あらすじ:ひょんな事から異世界の魔王に転生してしまった主人公。前世の記憶を思い出したことで小心者な性格になってしまうが、周囲からの期待が大きく嫌々世界征服を進めることに。毎回穏便に納めようとするが、無駄に人望があるせいで部下が暴走。主人公は意図せず大魔王への道を歩んでしまう。さらには勇者達が自分の命を狙って来て……違うんだ!俺は平和に暮らしたいだけなんだああああ!!
どうだろう? コメディ要素を全面に押した作品性にしてみた。ここで先ほどの見せる要素を加えてみよう。
・異世界の設定は重厚に、魔王が支配した地域で人々は残虐な拷問を受けている。これをリアルに描く。
・自分を殺しに来た勇者には魔族に親を殺された重い過去がある。
・部下達はそれぞれコンプレックスを抱えており、存在意義と他社との競争によって葛藤している。
この3つを加えてみる。するとどうでしょう。瞬く間に作品の方向性が変わってしまう。まず、読者のみ点で見た時、主人公の部下達が残虐な事を行為をすることでギャグとして受け入れられなくなる。さらに、勇者を軽快に倒したとしても、勇者の事情も知っているため爽快感を得られない。部下達の葛藤によってほのぼのした要素は追加できない。
この3つによってコメディという方向性は瓦解してしまうのだ。デフォルメした要素は取り払われ、リアルに埋め尽くされてしまう。これは分かりやすくコメディにしたが、他の要素にも同じ事が言える。
・主人公最強ものに通じる「勧善懲悪」
・ざまぁに通じる「因果応報」
こういった要素も物語のデフォルメの1種であると考える。現実とは乖離しているが、反面作者が伝えたい事や感じたい事がある故にデフォルメした形なのだ。そこにリアルを持ち込んだ時、物語は方向性を失ってしまう。つまり、面白く無くなってしまうのである。
だからこそ、敢えて「見せない事・語らない事」が大事。しかし、語らないからといって設定を組んでおかないと陳腐に見えてしまう。なので、作者としては詳細な世界観を組んでおいて「見せる部分、見せない部分を作者が取捨選択する」事で作品を作っていくのが最適解なのではと思う。過去に「リアルとリアリティは異なる」という言葉を見た事があるが、それはここに通ずるものだと考える。
・リアリティ……読者が物語にスムーズに没入するための物。その世界のルール。
・リアル……現実世界でのルール。これをどこまで盛り込むかで物語のデフォルメ度が決定する。
創作者は往々にしてリアルにしがちである。リアルでなければならないと思う時期もあるだろう。だけど今一度立ち止まって「自分の作品にとって何を見せるのか? 見せないのか?」を考えてみるとより良い作品になるかもしれない。
ちなみに、下記作品は自分の代表作である「ダンジョン配信もの」だ。この世界に限りなく近い世界にダンジョンが現れたという人気ジャンル。この作品はダンジョン配信を知らない人向けに自分が限りなくリアリティを持たせた作品だ。5話にはこの作品内における日本の歴史授業風景もある。1〜5話まで読むことで物語を楽しみつつ、この世界の設定を理解できるよう構成している。
よければこの作品を「作者が何を語っているのか、何を語っていないのか」という視点で読んでみてほしい。
もし少しでも参考になればこの創作論と、下記作品に⭐︎⭐︎⭐︎評価や作品フォローを頂けると嬉しいのでどうぞよろしくお願いします。
【461さんバズり録】〜ダンジョンオタクの無能力者、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまうw〜
第1話リンク
https://kakuyomu.jp/works/16818093072862688424/episodes/16818093072952437040
それではどうぞ頑張って。三丈は全ての創作者を応援しているよ。険しくも楽しい創作道……共に精進致しましょう!
「見せない」小説 三丈 夕六 @YUMITAKE
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