先生、今でも大好きです
水穂かほり
第1話
どんなにたくさんの人の中でも先生を見つけられる。
週末のショッピングモールは家族連れやカップル、友達どうしで溢れかえっている。
そんな雑然とした喧騒が静まり、ふと私の足は歩みを止める。
先生が、歩いている。
卒業してからもう何十年も経っているのに私はすぐに先生を見つけた。
素敵な奥様と並んで楽しそうにしている。
私は子供の手をぎゅっと握る。
子供はどうしたの?とでも言いたそうに私の顔を覗き込んでいる。
私は「こんにちは」の一言すらかけることもできず子供の手をひいてその場を離れた。
久しぶりに見た先生のあの頃より少し老けた顔に笑みがこぼれると同時に泣きたくなる、不思議な感覚。
お前の信じた道を歩んでいけ
そう言われ握手をしてサヨナラした初恋。
今はそれぞれの道を歩んでいるけれど、あの日から私の頭の中の先生がいなくなることはなかった。
みんなには内緒で色違いのお揃いのキーホルダーをつけて学校に通っていたこと。
一緒に入った喫茶店で優しく微笑んでくれたこと。
車の助手席に乗せてもらって緊張したこと。
初めて名前で呼んでくれたこと。
私が悩んでいる時に一緒に泣いてくれたこと。
毎日のように私と電話で話してくれたこと。
あの日々は私にとっての宝物。
でもあなたにとって私はただの生徒で、同情する対象でしかなかったと今では理解できている。
私は問題のある家庭で育った。
父親からのあらゆる虐待で心も体もボロボロだった。
母親からは我慢して欲しいとお願いされていた。
夜になるのが怖かった。
こんな私に優しくしてくれたのは、泣いてくれたのは先生だけだった。
私は自分が汚いものだと思っていたから先生に触れることさえできなかった。
先生も私に触れてこなかったのは私が生徒だったからなのか、私に嫌悪感を抱いていたのか、どちらなのかは今となってはわからない。
ただそこには別々の道を歩むふたりがいるだけ。
いつか生まれ変わりがあるのだとしたらその時は先生、あなたの手を取れる未来を選びたい。
躊躇わずにあなたの手を取れるような綺麗な体の人にきっと生まれ変わるから。
そして先生をきっと見つけるから。
それまで、またね。
今でも大好きな先生へ。
先生、今でも大好きです 水穂かほり @SUNchan1976
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