不幸、売ります2~あこがれ~

秋犬

あこがれ

 私が指定された喫茶店へ行くと、噂通りの「呪い屋さん」がいた。見た目は普通の、赤いパーカーを着た高校生くらいの男の子だ。


「それで、誰を不幸にしたいんだい?」

桃瀬ももせほのか。この世で一番大っ嫌いな奴」


 私はほのかのブロマイドを渡した。念のため本人から聞き出した本名と住所も後ろに書いてある。


「へえ、なんで?」

「やっと掴んだあこがれのミュージカルの主役オーディションなの! あんなアイドル小娘に渡したくないの!」


 子役時代から私は苦労して、バックダンサーから抜け出すチャンスを与えられた。せっかくプロデューサーから声がかかったのに、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「料金はどうしようか? 並と上と特上とあるけど」


 焼肉屋みたい。私としては、ほのかがオーディションに出なければいい。


「ちょっと風邪をひいて、オーディションの日に欠席すればいいの」

「それなら並でいいか……ちなみに、女の子には半額サービスがあるよ」

「そうなの!?」

「ちょっと付き合ってくれたら……なんてね」


 何だこのエロガキ。本当にこいつにそんな力があるの?


「依頼は確実にこなすよ。何なら、今回はタダでいいけど」


 そういうわけにもいかない。ニヤニヤしている呪い屋くんの言う金額を支払い、私は喫茶店を後にした。


***


 呪い屋にお願いした通り、ほのかは別の現場で事故にあって足に怪我を負った。大したことはないらしいが、数か月は安静に過ごさないといけないそうでステージの仕事は無理になったそうだ。


 その後、私はミュージカルの主役に選ばれた。あこがれの舞台で、歌って踊る私を皆に見てもらう。ああ、なんて幸せなんだろう!


***


 それからしばらくして、私は呪い屋くんと連絡をとった。


「今度は誰を呪うの?」

「あの糞プロデューサーに鉄槌を下して! あいつのせいで、私、私……」


 あいつの顔なんてもう見たくない。私は伏せたまま写真を渡した。


「料金は?」

「特上で」

「割引は?」

「……使わせてもらうわ」


 呪い屋くんは私を見た。一度でもスポットライトを浴びたいい女よ。その分、とびっきりの呪いをかけてもらわなきゃ。


「へへ、まいどあり」


 その後、糞プロデューサーは取材中の事故で死んだ。ざまあみろ。

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