とある予言者の憂鬱

遠藤みりん

第1話 とある予言者の憂鬱

 “私は未来が見える”


 こんな事を言う私をあなたは信じてくれるだろうか?


 私には全ての未来がはっきりと見えてしまうのだ。


 世界的な不況、恐ろしいウイルスの蔓延、そして戦争……何もかもが脳内のビジョンに鮮明に浮かぶ。


 この能力を知る数少ない友人は、私の事を予言者と呼ぶ。


 映るビジョンに私をどうしても憂鬱にしてしまう事柄がある。


 それは人類の進化の果てについてだ……


 人類は常に便利さを求め、様々な発明をしてきた。


 少しでも早く移動をしたいと自動車を発明し、空を自由に飛びたいと飛行機を発明した。


 人類の欲求は留まる事を知らない。中でも、いちばんの原動力は少しでも楽に生きていきたいと言う欲求である。


 かつて焚き火を使っていたが、現在では電気ヒーターを使い暖を取る。水道の蛇口をひねれば当たり前に水が出る。水を汲みに行く事等もちろんしない。この様な事は上げていけばきりがない。


 その全てが少しでも楽に生きて行きたいと言う人間らしい欲求からだ。


 私の憂鬱の理由を聞いて欲しい……


 私の脳内にはあるビジョンが見えている。それは様々な植物が世界中に溢れている世界だ。

 一見、自然が豊かな素晴らしい世界だと思われるだろう。


 そのビジョンを更に覗いて見ると、ビルや建物の全てが草木に覆われて人間が全く見当たらない。

 そして、そこら中に不気味な植物の塊が太陽を見上げるように鎮座している。


 この塊は一体なんだ……?


 私はその太陽を見上げる不気味な植物の塊の過去を覗いてみた。


 かつては火を起こし、道具を使い狩りをしていた。科学は目まぐるしく発展し生活のレベルは恐ろしいくらいに向上した。


 さらに未来を覗いてみると、便利さを求めて大抵の仕事はロボットがこなし、娯楽の多くはAIが作り出した。

 

 人間は働かずにAIが作り出す娯楽を楽しむ事で多くの時間を消費していた。


 さらに有能な科学者は植物からヒントを得て、日光から栄養を取り入れる技術を開発した。


 これが悲劇の始まりだった……


 人間は便利さを追求するあまり、ついには食事も取る事は無くなった。

 やがてAIが作り出す娯楽にも飽きてしまい、人間はいつからか栄養を取る為、屋外で太陽を眺めるだけの存在になってしまった。


 多くの人間が口を開けて何も思考せずに太陽を眺めていると、やがてその体に植物の蔦が絡まり、やがては人間は植物そのものになってしまった。


 そう……脳内に浮かんだビジョンの太陽を向いた不気味な植物の塊は人間だったのだ。


 便利さを求めてるあまり、人間を捨ててしまった進化の果てである。なんと悲しい皮肉だ……

 

 そのビジョンを見る度に私はとても深い憂鬱に包まれてしまうのだ……



 


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