未来都市ニルヴェイズの“ビート”が脈打つ世界観に、思わず心が踊り出しました。この物語に触れると、幸福がリズムとなって人々の間を巡る様子が、まるで音楽と感情が溶け合うダンスフロアのように感じられます。
ですが『SynapseBloom』は、単なる快楽追求型のSFではありません。魂が二つに分かれたCたちが、自我の揺らぎや再生を求めて歩む姿は、読者である私たち自身にも「本当の幸せとは?」と静かに問いかけてくれます。CSとC’が互いを補いながら進む姿や、ディーのさりげない支えは、とても愛おしく、孤独や自己探しに悩む現代の私たちの姿と重なります。
また、ブルームポットによる“強制的な幸福”という設定は、現代社会への鋭い風刺でもあり、物語を読み終えたあとには「自分にとっての幸せってなんだろう?」と、ふと立ち止まって考えたくなります。
斬新な発想と詩的な情緒にあふれたこの物語、ぜひ多くの方に手に取ってほしい――そんな気持ちでおすすめしたい作品です。
<第一部 第1話「黄金にとかされる」を読んでのレビューです>
冒頭から広がるのは黄金の波。人類の栄光を象徴するかのようにきらめく景色が描かれる。そこに重なっていくのは「液体ケーブル」という概念であり、精神や魂に直接触れる接続の仕組みだ。描写は繊細で、やわらかさと同時に金属的な冷たさを含み、読者の感覚を揺さぶる。
物語は次第に快楽と恐怖のはざまへと進む。拍動を媒介にして人を従わせ、塗り替えていく過程は、論理と生理がせめぎ合うような描写で、強烈な印象を残す。語りは断片的でありながら、断ち切れない緊迫感を保ち続ける。
「こぽん……。――魂の溶ける音。喪失。流出。敗北。この世から、たった一つの拍動がまた消える音。」
擬音とともに「魂」が失われる瞬間を音で表現することで、不可視の出来事を確かな現実として感じさせる。短い行の積み重ねが、逆に重たい余韻を響かせているように思う。
世界の仕組みの提示と、その仕組みに巻き込まれる個の姿が一話に凝縮されている。美と恐怖、そして快楽が一体化した描写の連続は、先を追わずにはいられない力を持っている。
この作品を形容するのに適当な言葉は『独特』、ほんとそれに尽きます。独特で鮮烈な世界観で、描写の異様さの端々から滲む異様さが異界感というか、少なくとも私は読んだことの無い類の物語でした。
もちろん、世界そのものだけでなく、そこに生きる人物も派手にぶっ飛んでます。主人公のCS、C'二人の設定からして攻めてますね。もちろん、関係性も何とも言い難いものです。そして、草臥れたDや黙って無くてもたまにイケメンなブラッド君など個性豊か……というより癖の塊みたいたキャラの出ること出ること。個人的にはオーインさんとブラッド君が好きだったり。
そして、戦闘シーンも独特でしたね。拍動、なる概念を重視するこの作品らしく、ラップバトルの趣が強いです。戦闘シーンらしい描写はあるのですが、そこに拍動の要素を加えるにあたり、独特のリズム感があると言いますか。ここでも独自性が感じられて大変興味深かったです。
これは余談ですが、いやーどうやったらこんな設定を考え付けるのか……私には到底思いもよらない設定の数々で大変勉強させていただきました。
それでは尖りに尖った拍動で燦然と鳴り響く本作、皆さんもぜひご一読を……いえ、ぜひ一度、響きあってみてはいかがでしょうか?