呪われた雛祭り

坂本 光陽

呪われた雛祭り


 仕事のストレスを癒すために、私たちは連休に温泉旅館にやってきた。意外とすいていたし、ひなまつりイベントのため、女性だけだと費用が二割引になるという。


 友人たちは喜んでいたが、ロビーに飾られた雛人形を見て、私の背筋は凍った。年代物の雛人形に、見覚えがあったからだ。それは間違いなく、「呪いの雛人形」だった。


 今なすべきことは一刻も早く、この場所から遠ざかることだ。私は宿泊予約をキャンセルしようと主張した。だが、友人たちは納得しない。一所懸命に説得したのだが、むげに断られてしまう。


 私の説明が荒唐無稽こうとうむけいであるためだろう。ついには、そんなに帰りたいなら、あなただけ帰ればいい、と言われてしまう。仕方なく、私は一人で温泉旅館を後にした。


 私が初めて「呪いの雛人形」を見たのは、十数年前の学生時代だった。アルバイトをしていたリサイクルショップに、年代物の雛人形があったのだ。高価な商品だったが、すぐに買い手がついた。ただ、しばらくすると返ってくる。


 店主は安価で引き取り、それを再び高値に売っていた。この雛人形は縁起物なので、手元にあると幸せな花嫁になる、というセールストークとともに。私がバイトを辞めるまで、五六回は繰り返されたと思う。


 しかし、実際にはそうではない。先輩にたずねたところ、こっそり教えてくれたのだ。「雛人形」が持ち主を転々とするのは、持ち主や家族が次々と不幸に見舞われるから。雛人形が手元にあると、その家の誰かが亡くなってしまうらしい。


 つまり、「死を招く雛人形」というわけである。最初は半信半疑だったが、先輩と一緒に顧客名簿をもとに調べてみたところ、真実であることがわかった。


 店主の行っていることは、まるで死に神である。私はバイトを辞めて、リサイクルショップには二度と近づかなかった。後日、先輩から聞いた話によると、店主は別件の詐欺容疑で逮捕され、留置場で首を吊ったらしい。


 そんなこともあり、私は「呪いの雛人形」に近づきたくなかった。ただ、友人たちを強引に連れて帰らなかったことは後悔している。温泉旅館が山崩れに飲み込まれ、彼女たちが亡くなったからである。


「呪いの雛人形」がどうなったのかはわからない。






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