冬が終わる話
多田七究
今季最強寒波
冬が終わろうとしていた。
だが、寒波がやってきた。一部メディアでは今季最強寒波だと騒がれている。
「ひどいな、こりゃ」
男の息は白い。
とはいえ、彼の住む地域は温暖。
うっすらと雪が積もる程度ですんでいた。
振り返った男の前に、とつぜん影が現れた。それは、少女だった。
驚く男。
それもそのはず、少女はあまり暖かそうな服装ではなかったのだ。どちらかといえば、ごつごつしている。
「春が嫌いだ」
庭でたたずむ男にたいして、少女は藪から棒にそう告げた。
「名前は? おれは、サロー」
「ユキ」
「どこから来た?」
「……」
長い黒髪の少女は何も言わず、北のほうを指さした。
「北のほうか。それで言葉がちょっと違うんだな」
納得するサロー。会話をつづける。
「寒くないか?」
「ううん」
ユキの表情はほとんど変わらない。まるで美しい人形のようだった。しかし、どこか悲しそうに見える。
あやうく見とれそうになったサローは、別の話題でお茶を濁す。
「腹、減ってないか? お母さんは?」
「へってない」
「そうか」
会話がつづかなくなって、サローは頭をかいた。
太陽が姿を現す。
「冬は嫌い?」
「春を待ちわびてるんだ、おれは」
正直にいまの気持ちを告げる男。
気づくと、少女の姿はなかった。
冬が終わろうとしていた。
冬が終わる話 多田七究 @tada79
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