日輪村という場所には、大きな木がありまして。
今夜は宴が開かれております。
この宴を、盃を交わしながら月を眺め、楽しんでいるものたち。
それは、姿形こそ人間によく似ておりますが、
その性質は実は……人ではなく、蛇にございます。
蛇神と呼ばれる彼らと人間との関係は、例えるならば人間と天狗の関係のようなものでございまして。
人間が蛇神に雨を乞う。蛇神は叶える見返りに供物をや、時には人の子を嫁に迎える。と言った具合の……まあ、
叩き潰して言ったところの、ウィン・ウィンな関係にございまするな。
そのように不文律的な関係を続けてきた蛇神と人間。
しかし取引にトラブルは、やはりつきもののようでございまして。
木の根に座る二人の蛇神が何やら、もめてございます。
なんでも男の方が、庄屋の願いを叶えて雨を降らせてやったのに、娘を嫁にもらう約束を、反故にされたのだそうですな。
もちろん人間側にも完全に悪気があったわけではない。そこにはのっぴきならに事情は、確かにあったのにございます。しかしながら結果的に、蛇神様への約束を、破った。
なのに男の方は、どこかあっけらかんとしていて別にどうでもよしと。そのような態度だもので仲間である女の方はヤキモキとします。
……人間たちからしてみれば、超人的な法力を持ちます蛇神様に弓引く行為。
これは……冷静ではいられません。ひたすらに怯えます。
そしてとった行動は……。
人間と、人ならざるものとの関係。
そのコミュニティのリアルさ。そして派手な戦闘シーンと、なんとラストには……な展開まで。
よくぞこのスケールを一万字に閉じ込めたと、拍手を送りたくなりまする。
お勧めいたします。
是非、ご一読を。
美しい、そう思いました。
ここには圧倒的な「オリジナルの世界観」が存在しています。
物語を書く場合、何をもってして「オリジナル」と言えばいいのか?
多くの方がそこに疑問を抱く問いだと思います。
これだけの情報量が溢れ、創作の世界においてAIまで登場し、もはや純然たるオリジナルなど存在しない、というのが一般的な見解です。
ですが、私は思うのです。
例えば、同じユニクロの服を着ても、着こなしはみんな違うと思うんです。
カラオケで同じ歌を歌っても、きっとみんな違うと思うんです。
その「差異」を圧倒的な領域で表現出来れば、
もうそれは「オリジナル」って呼んでいいのだと思います。
語弊はあるかもしれませんが、現代はそういう「オリジナリティ」が求められている時代だと、私は思うんです。
さて、本作ですが、概要に書かれている範囲でお知らせいたしますと、蛇神達と人間の物語です。ストーリーは蛇神達の視点で綴られます。
その美文に心が躍ります。
その世界観に心が一気に引き込まれます。
そして、ここに書かれた二つの「優しさ」の結末が非常に清々しく美しい物語です。
お勧め致します。
美しく圧倒的な世界観を持つ、オリジナルファンタジーです。
一万字以内の短い短編ながら、すごい「力」を持つ物語です。
素晴らしいです。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)
人と怪異。そして新しいものと古いもの。そうした色々な対比について考えさせられる物語でした。
主人公の奈津野と柚木耶の二人は「蛇神」の化身。人間の姿をしてはいるものの、絶大な力を持っており、付近の住民のために雨を降らせるなどの恩恵を与えた。
しかし、村人たちは「雨」の対価として娘を差し出すと約束していたものの、いざとなったらそれを反故にする決断をしてしまう。
奈津野のことをないがしろにされた柚木耶は怒り、村人たちに思い知らせたいと願うが……。
神に対して願い事をし、その際に人間が約束を破り、怒った神が災いをなす。それを旅の武芸者なんかが見事に退治……というような物語は昔話としてちょくちょく語り継がれているものであります。
基本は「美しい娘を怪異から守ってあげる英雄の話」みたいに語られますが、神の側からすれば理不尽極まりない。
ちゃんと約束を守ってもらいたいだけなのに、なぜか化け物扱いされて退治までされるという。
本作はそんな「神」の側から見た感覚が丁寧に描き出されているのも魅力です。同時に「神」というものが信仰や畏怖の対象ではなくなり、「祠」なども破壊はされるし、蛇神なんかも「退治しても構わない」ような存在として捉えられるようにもなるという。
そういう「今まで当たり前だったもの」が「時代遅れの古いもの」となり、どんどん忘れさせられていくようになる。
本作の奈津野と柚木耶の二人は、そんな「古きもの」とされていく悲哀を一身に受けているのが特徴的でした。
そして、その境遇に憤る柚木耶と、それでも理解を示そうとする温和な奈津野という比較がとても綺麗で、二人の掛け合いから「時代の変遷をどう受け止めるのか」というテーマが浮き彫りになっていく様が読み応え抜群でした。
そんな中でもどこか人間臭く、親しみやすさもある奈津野と柚木耶の姿が微笑ましく、強く感情移入させられます。
「一つの転換点」を活写した、壮大なファンタジー。多くの方にオススメしたい一作です!