EP23. 『First spoils. A memento』
5月5日.pm7:45 ルブリス旋星国
第13ネザークレイドル商業区内東通り
【
――タタタン、タタタンッ!
「ふぁ……」
タタタン、タタタンッ! タタタンッ!
「おせぇな、フォッグのおっさん……まさか路上で酔いつぶれてやしねーだろーな……くあぁ……っ」
タタタン、タタタンッ! タタタン、タタタン、タタタンッ!
……ゴトン。
「サーズ」
「んぉ?」
射的ゲーム『リアルハント狩猟伝説SP』の筐体からやや離れた席で頬杖をついていたサーズに、声がかかる。
暇を持て余していた――とはいえ、時間を潰せるゲームはそこかしこ並んでいたのだが――青年の前に、いつの間にか射的ゲームに挑んでいた筈のティルスが立っていた。
「当たりません。的が逃げます。捕捉しきれません」
「だろうな」
「だろうな、ではありません。弾切れになりました。プレイを続行する為に、追加のクレジットを要求します」
「あー、そういや俺が回収してたか」
そこはかとなく不満げな面持ちとなっていたコミュロイドの少女へと向けて、青年が銀色の硬貨を投げて寄越す。
トスン、と微かな音を立てて、それはティルスの胸元に収まった。
「お。我ながらナイスコントロール……と言うには、随分と深いラフに嵌っちまったか」
「サーズ」
「おっと礼はいらねぇぜ? 後は入れたら出てくるからよ。リトライ祭り頑張りな」
「……わかりました」
自らの手でクレジットを回収したティルスが、サーズの声援に見送られて再び戦場へと舞い戻る。
しかしというべきか、当然というべきか……
――ガタンッ!
「サーズ。当たりません。的の動きが早過ぎます。動きも不規則で法則性が見いだせず、パターン化が困難です。加えて連射を行うと銃に何故だか反動が加わり狙いが逸れてしまいます。更に弾丸が球状で軽量のプラスチック製である為、空気抵抗の影響が激しく射出軌道のランダム性が非常に高いです」
「ほー。流石腐ってもコミュロイド。中々の観察力だな。それで?」
「私は腐ってはいません。発言の撤回を求めます」
「アホ。物の例えだよ、例え。ま、悪かったわ。お前がまだ新品なのは本当のことだしな」
「……アホと言われることは、否定しません。残念ではありますが」
告げるべきと思った口にしてから、少女が大きく肩を落とす。
アホと言われても仕方がない。
なにせ自分は90発もの弾を標的に向けて撃ち続けながら、1発として命中させられずにいるのだ。
並外れた演算能力を備えた
あってはならないことだ。
……などと衝撃を受けるティルスだが。
この射的ゲーム、1プレイ100クレジットでのデフォルト装弾数は30発。
既に彼女は3プレイ分、戦利品なしという状態なので仕方がないともいえる。
確かにランダムな挙動で、且つ素早く動く的に弾を当てるというのは、決して容易くはない。
しかしそれも、90発も撃ち込んでおいて的中なし、というのは流石に可笑しい。
その事実を踏まえて、サーズが椅子から立ち上がった。
「そういう時はな。頼れるカッコイイ男に向かって一言いやぁいいんだよ」
まさか目的の麦わら帽子どころか、他の景品にすら
なんにせよ、このままではティルスを引っ張り回してきた意味もない。
しょぼくれるコミュロイドの少女の前に立ち、彼は言った。
「長ったらしく喋ってねえで、素直に『助けて』ってな」
「……つまりそれは、貴方が『頼れるカッコイイ男』である、という主張でしょうか」
「主張もなにも事実だろ。そら言え。ほら言え。とっと言えっての」
「なるほど。それでは」
あまりやる気のなさそうな救世主の登場に、ティルスが頷き首を垂れた。
「助けてください。サーズ・レスリード・ブラックガントレット。どうかあの麦わら帽子を取ってください」
「ブッブー」
深々と下げて助けを乞うた少女の頭の後ろへと、しかしやってきたのは『不正解』を現すブザー音の口真似だった。
「……は?」
「ちげぇだろ」
助けを求めろと言っておいて、いざそれを実行したら不正解扱い。
そのチグハグさに思わずティルスが怪訝な表情を浮かべると、そこに追撃のダメ出しが飛んできた。
「お前が頼むのは、俺にアレを取ってもらうことじゃねえ。何のためにこんな所まで連れてきてやったと思ってんだよ」
「……仰る意味がわかりません。端的に、何をどうすれば正解なのか教えてください」
「右上。金ぴかの糞ダセェ傘みてろ」
少女の問いかけに、サーズが指示を行いつつクレジットを投入する。
四度目となるゲームスタート。
すべてのターゲットが高速で動きだす。
サーズが構える。
彼が射撃体勢に入ったと、ティルスが感じた瞬間。
タン!
せわしなく動き回っていた金のパラソルに、
〖OK! OK!〗
威勢のいい男性の合成音と共に、景品が倒されて奥へと落ちる。
ベルトコンベヤーに乗せられたそれが、程なくしてサーズの元へと運ばれてきた。
「え……」
その結果を前にして、ティルスが混乱する。
ただの一度の射撃で宣言通りの品に的中させた、サーズの腕前に対してもだが……
残弾表示は29。
それまで3発1セットで消費されていた弾丸が、1発しか減っていない。
「3点バーストっていってな。トリガーを普通に引いたら3発までは連射される仕組みだが、1発だけ撃つことも出来るって寸法さ。ま、銃の型にもよるし、撃ち続けても反動で狙いがブレるからそう言う制限がされてるってだけで、こんな玩具にゃ不要な機能だけどな」
その事象について説明を行いつつ、青年が少女に
「
「……イエス、サーズ」
アサルトライフルを手に、三度ティルスが射撃台に立つ。
そこにサーズが寄り添い、共に標的である麦わら帽子を狙いをつける。
「観察もいいがな。集めた情報は使ってナンボだ」
「使ってナンボ……」
「分析してみろっていってるんだよ。お前、さっき俺が撃つとこ見てたろ。それと今まで集めた情報を繋げてみせろ。出来るだろ、お前なら」
問われたというよりは、断じられた。
そう感じて、ティルスの思考が情報の渦へと飛び込み……
――タン!
麦わら帽子のど真ん中へと、一発のBB弾がめり込んでいた。
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