崩壊したかつての地球は「成層圏:ゼニスレイヤ」「対流圏:ネザーレイヤ」「地表域:アビスレイヤ」の三層に分かたれた――そのようなポストアポカリプス世界を舞台にした本作『鋼鉄のフラグメント』。
舞台となるのは、創主国アドミニスが支配する空の浮遊大地(クレイドル)。その中でも熱狂的な人気を誇るのが「ネザーバトル」と呼ばれる仮想ロボット戦闘ゲームです。これは、ただの娯楽にとどまらず、戦果とランキングによって生計が立ち、アイドルのように投げ銭を受けるプレイヤーもいるという、まさに生き様そのもの。
ネザーバトルにおける機体や武装設定などは、かなり練られているものを感じ、その手のものが好きな方には、特におすすめしたい作品です。さらには、作者様の筆がなせる技か、それらが設定レベルにとどまらず、白熱の戦闘シーン描写にしっかりと結びついている印象です。いわゆる掲示板回もあり、作中世界のリアリティと熱気が肌で感じられる構成が大変に魅力的です。
そんなネザーバトルに傾倒する主人公・サーズは、荒くれ者でトリガーハッピー体質な青年。非凡なセンスを持ちながらも伸び悩む彼の前に現れたのが、謎のコミュロイド・ティルス。『鋼鉄のフラグメント』世界におけるアンドロイド的存在なのですが、半ば人間のような情緒を持った特別なコミュロイドのようで、サーズのもとに送り込まれたのも何か事情がある様子。彼女が物語にどういった役割を担っていくのか、今後も目が離せません。
そして何より本作の真骨頂は、「設定資料」にあると思っています。単なる情報の羅列ではなく、例えば、ナノマシン粒子を迷惑なスギ花粉呼ばわりするようなユーモアある言い回しで、難解な設定をすっと読ませる手腕が光ります。
ぜひ設定資料とともに、じっくり堪能いただきたい作品です。