第2話 後編
私は一体、何なのか
寄生虫に脳を蝕まれる前、私は誰かを愛していた気がする
そして私は、子供を抱いていた気がする
子供を抱いて、この題名もわからない歌を歌っていた気がするのだ
しかし、それは、もはや、夢の中のように取り留めもない話
脳を寄生虫に蝕まれた私は、エヴァノワールに命じられるまま、幽慶が連れてくる男たちの頭を齧り、脳を喰らってゆく
『
と呼ばれているが、私の本当の名前だとは思えない
私はどこの誰で、何と呼ばれていたのか・・・
それにしても、あの娘、あの首から下げたお守り、どこか、懐かしい気がする
俺は白銀の鎧を身につけて安達原にやってきた
同じく、甲冑を身につけた弟分たちはバイクから降りる
「左馬之助の兄貴、副長のバイクですぜ」
「でかした。やっぱり、ここにきてやがったか」
俺は『ハンドレッド・アイズ』の総長『百々目の左馬之助』と呼ばれるもんだ
弟分の小五郎が女を追いかけていったっきり戻ってこねえ
集落の人間に聞いたらどうやら、安達原に行ったらしいが、帰ってこないと言うのは妙だ
小五郎は俺の幼馴染であり、俺への忠誠心が誰よりも高い男だ
俺を裏切るなんて考えられないし、裏切る理由は考えられない
ならば、考えられることは一つ
小五郎は何者かに襲われた
『ハンドレッド・アイズ』は俺の家族だ
俺の家族に手を出すことは許さん、俺はこの喧嘩を買ってやるぜ
『ハンドレッド・アイズ』百人、総出で安達原にやってきた
「どこの誰だろうが関係ねえ。俺たちに手を出したら家族もろとも解体工場に送って生きたまま切り刻んでやる」
「左馬之助の兄貴!ここに洞窟があります」
この辺は戦時中、大きな防空壕があったと聞いた事があったが、なるほどな
洞窟の中を覗き込んだ
生暖かい風が洞窟から吹いてくる
「見てくだせえ。こいつは血痕だ」
「この奥にクソ野郎がいるわけだな。いいか、できる限り生け取りにしろ。俺たちに手を出す奴がどうなるか。思い知らせてやる」
その時だった
洞窟から背の高い女が出てきた
黒い服を着た髪の長い女だ
俺たちは一斉に女に、それぞれ手に持った銃や刀、槍を出てきた女に向かって構える
女は刃や銃口を突きつけられていると言うのに、ピクリともしない
よほど修羅場に慣れているのか、壊れているのか
「おっと、お嬢さん、ここに小五郎と言う男がいるはずなんだが」
「・・・・・・」
「なんとか言わんかい、このアマ!」
血の気の多い俺の弟分が女に掴み掛かろうとした
その時だった
弟分の腕が切断されて宙を飛ぶ
「グアアああ!!」
弟分は切断された腕から血を流しながら叫ぶ
な、何が起こった!?
わからねえ
だが、こいつは生かしておけねえ
「撃て!構わねえ、撃ち殺せ!」
ズガガガガ!!
銃弾が飛び出すがその全てを女の頭から生えた触手が防ぐ
「エヴァノワール、
女はそう呟いたように聞こえた
黒い液体が女の体の内側から湧いてきて、全身を真っ黒に染めてしまう
牙を剥き出しに笑う、その姿はまるで鬼だ
体から無数の角のようなものが生えてくる
その角が槍のように次々に仲間たちの心臓を貫いていった
「うわあああ!!」
逃げ出そうとした仲間の背中を貫くと引き寄せて、頭をその牙の生えた大きな口で食いちぎる
弟分たちに持たせた20式5.56mm小銃で撃っても、あの黒い液体が固まった表皮を貫けねえ
奴の足から黒い液体が広がっていくのを俺は見た
それは俺たちの足もとに広がってゆく
「逃げろ!」
黒い液体から強烈な電撃が広がる
「ぎゃああああああ」
電撃が走り、電撃を受けた弟分たちが焼かれてゆく
電撃が過ぎ去った後、立っているのは俺とあの鬼だけだった
俺の甲冑は電気を通さねえ
そのおかげで俺は助かった
だが
俺は黒焦げになって死んでいる弟分たちを見回した
手が震え出す
感じるのはあの日の死の気配だ
空爆を受ける防空壕で母さんが崩れてきた瓦礫の下敷きになった
皆、逃げ回るのに必死で誰も助けてはくれなかった
母さんは血を吐きながら俺に言ったんだ
「生きて、どんな事があっても、生きて生きて生き抜いて」
死ぬのは嫌だ、死ぬのは嫌だ
だから俺は生き抜いてきたよ、この浮世の地獄を
自分が生きるためには誰が死のうが、何をしようが関係ねえ
他の人間を踏み躙りながら、鬼畜と呼ばれても母さんが言った通り、生き抜いてきたんだ
俺は鎧の背中についている四つのアームを起動させた
アームはそれぞれ、光学兵器であるレイ・セイバーが装備されてある
レーザーの刃なら奴の腕を焼き切れるはずだ
死んでいった仲間の仇を、何より、明日を生きるために戦ってやる
「俺は生きる!生き残る!!誰を殺しても、誰のハラワタを喰らってもなあ!!」
電脳操作により四つの刀が振るわれて鬼の右腕を切断した
「やった!!」
やはり、レーザーならば、鬼を殺せる
俺は勝利を確信した
その時だった
奴の切断した右腕の断面から黒い液が垂れてきた
その黒い液体は薄いヒラヒラとした新体操で使う
「何をするか知らないが、この距離ならば俺のレイ・セイバーの方が速い!死ね、鬼を倒すのはいつだって人間様だ!!」
奴は左腕を振るった
俺のアームズに
「なあああああにいいいいいい!!??」
奴は俺に飛びかかり、俺は奴に押し倒される
メキメキメキメキ
音を立てながら奴は口を大きく開いた
何をするか、俺はすぐにわかった
「やめろ!やめてくれ!」
生きていたい、生きていたい生きていたい
だが、俺は思った
俺は内臓を奪うために誰かを攫って、切り刻む時に、そいつの命乞いを聞いた事があったのか?
全ては
悪行は全て自分に返ってくる
そんなこと、母さんから教えてもらったはずなのに
ガバッ!!
牙の生えた奴の口が俺の頭を包み込んだ
安達原の鬼 鷲巣 晶 @kusyami4
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