洗濯の悲哀

西しまこ

洗濯をすると汚くなる?

 遠い昔、実家暮らしをしていた頃のこと。

「洗濯をすると汚くなる」

 そう、妹が言った。

 ふーんと思って聞いていた。


 大学生の頃から、自分の洗濯は自分でしていたので、わたしには妹のようなことは起こっていなかった。ただ「あまりきれいにならない」と思うことはあった。しかし、母親が家族の洗濯をする合間をぬって洗濯をしていたので、ともかく週末に洗濯をすること自体が最優先され、妹の言葉を深く考えたりはしなかった。ちなみに妹とは6つ離れていて、妹は「洗濯をしてもらえない」事態には遭遇していない。3つ下の弟はむろん洗濯してもらっている。きょうだいの中で、わたしだけが、洗濯をしてもらえなかった。大学生の頃から。


「お母さん、わたしのだけ洗濯してくれなかったのはどうして?」

「え? 私、そんなことしてたっけ?」


 長い年月が経ったので母に尋ねてみたけれど、彼女は覚えていなかった。

 覚えていないことに衝撃を受けた。

 まあ、そんなもんだ。

 わたしが高校生からお弁当を作っていたことも覚えていないに違いない。

 まあ、そんなもんだ。


 ところで、洗濯。

 一人暮らしをするようになり、「洗濯は毎日する方が効率的だ」と教えてもらい、毎日することにした。実家にいるときは、洗濯機が使えない状態だったので(家族の衣類が山のように入っていた)、土日しか洗濯出来なかったのである。

 毎日洗濯する方がいい!

 まず、干す時間がかからないし、それに当然のことながら、汚れも落ちやすい。わたしは、洗濯機に入れる前に、汚れがひどいものは手で洗っておくことを覚えた。また、下着の手洗いや日陰干しすることを覚えた。「お洒落着洗い」も知った。

 きちんと洗濯をすると、汚れは落ちる。

 また、洗濯機に洗濯物を入れ過ぎないのも大事だし、洗濯機そのものを洗うのも大事だ。


 実家では、洗濯機に衣類がぱんぱんになってから洗濯をしていたし、洗濯機そのものを洗うことを、母は知らないに違いない。


 要するに、「洗濯をすると汚くなる」という、洗濯機に入れると汚れる方面に変身してしまう事態になるのは、他の衣類の汚れが付着してしまうからだし、洗濯機自体の汚れが付着してしまっている場合もあっただろう。また、節約志向の母は洗濯洗剤を既定の半分しか入れていなかったので、きちんと洗えていない可能性も否定出来ない。


 ところで、わたしの長男は今度大学生になる。

 高校生のとき、お弁当を自分で作ることもなかったし、大学生になったら自分の洗濯物を自分でするとも思えない。そもそも、彼は色々なことをしでかしてくれて、学校からは恐怖の電話がかかってきたりした。今でも、様々なことをしでかし、わたしは胃が痛くなる。彼は嘘ばかりつくし、自由を満喫するのはいいのだが、親からお金をもらうことばかり考えている。

 息子が小さい頃、『へんしんトンネル』という絵本を読んだ。トンネルに入ると変身するのだ!


「変身洗濯機」に入った長男が、変身する様を、少しだけ夢想してしまった。

 そんな洗濯機があったらいいのに、とほんの少し期待した。





    おしまい☆彡

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洗濯の悲哀 西しまこ @nishi-shima

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