第三十一話 勇者殺し ~ウォ―フェアⅡ~

 2階、西方面。


 銃声が鳴り響く廊下の中をある集団が駆け抜けている。

 レジスタンス達だ。四人一組の彼等はサブマシンガンを構え、迎撃に向かっている最中だ。


「いつバレたんだ?」

「知るか、迎え撃つしかねえ」


 愚痴を吐きながらも歩を進めていたその時――左の壁を貫通し、大量の銃弾が飛び出して来た。


「な――」


 突然のことに動けぬ中、四人は成すすべ無く銃弾の嵐に晒されてしまう。

 抵抗も、逃亡も出来ず、体中に穴を開け、血を撒き散らしながら崩れ落ちていった。

 全滅である。


 一瞬で辺りが静かになったこの状況下、左側のドアが開き、二人の男が現れる。

 ニロとルカスだ。二人は廊下へ躍り出た瞬間双頭の銃口でクリアリングを行い始める。


「クリア」


 さて、小休止を挟みたい所だがそうはいかない。次の手勢が現れた。

 数は四人、同じようにサブマシンガンを構え、即座に弾幕をばら撒きに来ている。


 二人は防弾アーマーしか防ぐ手立てのない為、ニロの指示の元、後退を始めていく。

 レジスタンスは追ってくるが、二人は早足にその場を去りながら牽制。

 効果はあるのか、攻撃の勢いが弱まっていく。


 必死の攻防の中、冷静に視線を巡らせ右側から現れた一団に気付く。

 これまた四人の部隊だ。

 他の者達と同じく密造製のサブマシンガンを構え、急速に迫って来ていた。


「不味いな」


 思わず言葉を漏らしながら、ニロは手榴弾を素早く投擲。

 ピンが抜かれたそれが転がる中、二人は全速力で退避して行く。


 間を置かず背後で轟音が鳴り響き、粉塵が辺り一面に舞う。

 何人かの断末魔も聞こえて来たが……どうやら全員殺しきれなかったようだ。

 濃い白煙を縫って生き残ったレジスタンスの兵士が現れる。それも七人。

 彼等は二人に向けてサブマシンガンを発砲。乾いた音が何度も何度も廊下中に木霊していく。


「逃がすなッッ」


 奴等のリーダー格、鼻に傷のある女が他のメンバーを鼓舞する。

 敵兵共は何としてでも殺す気のようだ。


 ルカスは逃げながらも再度牽制。一人射殺するもそれ以上の数を減らすことが出来ない。

 かなり歯痒い結果に表情しかめる中、ニロが肩を叩いて来た。


「?」


 銃弾の嵐から逃げながらもニロの方を見ると、彼はあるハンドサインである指示を飛ばす。

 分裂フォーメーションの指示と、そしてとある攻撃方法の指示をだ。


「……、」

「よし」


 ルカスが頷くのを確認すると、ニロはある物をレジスタンスの方へ投擲した。

 手榴弾では無い。ドラム缶を小さくしたような、筒状の投擲物、発煙弾だ。


 既にピンは抜かれ、木の床で子気味の良く鳴り、転がり始めた瞬間、点火。

 空気の抜けた音と共に、あっという間に辺り一面に煙幕が焚かれていく。


「クソッッ」


 追っていた六人は一瞬で充満した煙に視界を奪われ、その場で足を止める。

 ただでさえ狭い廊下に撒かれたのか煙の濃度は恐ろしく濃い。

 右を見ても左を見ても視界は白、白一色で全く見えない。

 

「……下がるぞ」


 ここにいても拉致が空かない。鼻に傷のある女の命令と共に、六人が後退し始める。

 サブマシンガンを構え、クリアリングを行いながら……ゆっくり、ゆっくりと。

 ジリジリと下がる彼等だが、充満した煙のせいで気付かずにいた。


 ――後方で息を殺し、ジッと待ち構えていたルカスの存在を。


「な――ギェッッ」


 寸前で一人が気付くが、もう手遅れ。

 一瞬の内に喉元をナイフで切られ、血を噴き出ながら倒れていく。

 もう一人も仲間の死で全てを察し反撃に出るが、流れるように脳天を刺されてしまう。


「この――ッッ」


 鼻に傷のある女はなんのこれしきと強引に銃口を向け、発砲。

 数発の弾丸が殺到するが、ルカスは身を低くし、それらを全て回避。

 同時にナイフで奴の腹を横一文字に掻っ捌き、そのまま煙の中へと消えていった。


「ッッ!?」


 激痛と共に彼女の腹から腸が漏れ出る。

 思わずうめき声を上げると、サブマシンガンから手を離し、傷口を抑え始める。

 必死に、必死に抑えているつもりだが、流れ出る血はとどまることを知らない。


 忍び寄る死を肌感覚で味わう中、ルカスによる殺戮は止まる気配が無かった。

 白一色の空間の中、マズルフラッシュが汎ゆる所で明滅。

 そこに銃声や肉を裂く音、そしてレジスタンスの断末魔が響き渡る。


「……」


 一連の光景を特等席から聞いていた彼女は、怒りに顔を歪ませる。

 せめて一矢報いようと視線を動かし……床に落ちてあるサブマシンガンに気付いた。


「……!!」


 これだ、これでやってやる。

 鼻に傷のある女は片手で傷口を抑えつつ、勢いよく手を伸ばす。

 素早くグリップを掴み、死に物狂いで弾をばら撒こうとした瞬間――彼女の脳天に穴が開いた。


「ツ゚」


 穴から血が噴き出る中、次々と彼女の体に穴が開いていく。

 鼻に傷のある女はサブマシンガンを掴んだまま動きを停止、間をおいて崩れ落ちていった。


 仰向けに倒れたまま動かない。

 いくつも開いた穴から血が漏れ出る中、彼女の前に一人の男が現れる。

 ニロだ。煙を縫って現れた彼の手には、小振りのピストルが握られている。

 銃口には風の渦が渦巻き、事切れた女へと向け続けられていた。


 気付けば辺りから煙は消え……六人の死体が転がる光景が顕になる。

 近くではルカスがナイフからサブマシンガンに持ち替え、徹底したクリアリングを行っていく。


「クリア」


 ルカスの淡々とした報告をニロは背中で聞いていた。


――――――


 グランツ達は現在、中庭を一望できる通路を真っ直ぐ突き進んでいる最中だ。


 向こう側でレジスタンスの部隊が八人、中庭を挟み反対の窓側へと展開。

 少し離れた距離からサブマシンガンをぶっ放して来ている。


 かなり激しい攻撃に対して、グランツがバリアを張りつつ迎撃、リッキーはルイスガンを発砲。

 中庭を挟んだ激しい撃ち合いを興じていた。


「どうするこっから」


 進軍を続けながら今後の計画を聞くリッキー。

 質問を投げる中、右側に展開した四人の体を蜂の巣にしていく。


「上に上がろう」


 対してグランツは今後の方針を決めつつ、二人の兵士へとピストルで攻撃。

 冷静に脳天を撃ち抜き、敵兵二人は白目を剥きながら倒れていく。


「分かった」


 リッキーは威勢よく返答しながら残り二人を射殺……激しい撃ち合いを勝利で終わらせていった。


「よぉしっ」


 正にウハウハな状況下の中、リッキーの耳元へ足音が飛び込んで来る。

 向こうからだ、恐らく新手だろう。


「来たな」


 結構な数を殺った、どんとこい。

 そう意気揚々とルイスガンを構える中、新手が姿を現した。


 数は八人、皆が皆、サブマシンガンの照準をグランツへと向けている。

 ここまでは許容範囲だが……一人だけ、鉄製の胴鎧を着込んだオークの男だけが、他とは違う武器を構えていた。


 グリップ付きの太い黒鉄の棒、上から装着された大皿のようなパンマガジン、大口を開けた銃口。

 リッキーが絶賛愛用中の……ルイスガン軽機関銃そのものを。


「――あ、やべ」


 一瞬で状況を理解したリッキーは思わず言葉を漏らし、直ぐ様発砲。

 グランツも彼の前で素早くバリアを張った瞬間――奴等の弾丸が一斉に飛び込んで来た。


 大量のパラベラム弾に加え、7.92x57mmモーゼル弾が二人に向けて殺到。

 明らかに違うその威力に、辺りの土壁、木片等、汎ゆる物が跡形も無く弾け飛ぶ。


 正に嵐に晒されてる状況下、二人はなんとか反撃しながら逃げていった。


「大賑わいだな!!」


 嵐の中で軽口を叩きながら、ルイスガンで牽制するリッキー。

 かなり派手にぶっ放し一人か二人蜂の巣にするも、嵐の勢いは収まりそうにない。


 なんとかこの嵐を凌ごうと曲がった先では、また別の部隊が待ち構えていた。

 合計六人、挟み内の為に回り込んだ伏兵達だ。


「WOW!!!!」


 待ち構えてた奴等の攻撃に驚き、思わず直ぐ横の部屋に入るリッキー。

 グランツも追うように入った先は、やけに広い部屋だった。


 壁を何部屋か取っ払い、そこにありとあらゆる物をを詰めた木箱がびっしりと置いてある。

 正に倉庫と言う言葉を体現したような場所だ。


 二人はその奥へと全力で走っていく。

 無論、追ってきた奴らへの牽制も忘れない。

 双方で銃弾が猛烈に飛び交い、辺りが派手に火花を上げたり、または弾けたりした。


「HA-HA-HA-HAッッ!!!!」


 余りの物量にリッキーは笑った。それも豪快に。

 かなり豪快に笑いながらもグランツと共に逃げ、または牽制。

 偶然見つけた奥の木箱へと、二人同時にスライディングで入り込んでいった。


 取り敢えず遮蔽物に入った。なんとか死なずにすんだが、まだ戦闘は終わった訳では無い。

 リッキーは遮蔽物の影から覗くと、十二人の敵兵達が容赦無く弾幕を張ってるのが見えた。

 勿論、重装兵も健在だ。


「……HA-HA、凄え」


 笑みを浮かべるリッキーだが、その表情からは少々の焦りが滲み出ている。

 この状況を不味いと思ってるようだ。


「どうする」


 少し焦り出したリッキーに対し、グランツは冷静な様子で聞いてくる。

 バリアは最大出力で張っているのか、モーゼル弾をなんとか防げてはいた。


「あ〜〜うん」


 180°の方向から二種類の弾丸が飛んで来る中、リッキーは牽制しながらも思案する。

 グランツも彼の手助けをするべく、汎ゆる所へ視線を動かす。


 ――ショットガンで迎撃を行いつつも、思考は一気に加速。


 ――何か起死回生の手段が無いか巡らせ……巡らせ……巡らせ。


 ――そして、見つける。


 ――右斜め向こう側、ダイナマイトと書かれた木箱を。


「……おい」


 グランツはリッキーの肩を叩き、ダイナマイトの方を指差す。

 リッキーが促されるように、指差す方を見た瞬間――破顔した。

 こんな火薬庫と言わんばかりの部屋で、大人数で攻撃を仕掛けた彼らに破顔してしまった。


「あんがとよ」


 リッキーは横で迎撃するグランツの肩を揺さぶり、感謝の言葉を一つ。

 そしてホルスターから手榴弾を取り出し、投与。

 空気を裂く音に入り混じり、異様に軽い金属音がダイナマイトの近くでハッキリと鳴った。


「何とかなれッッ」


 リッキーはルイスガンから手を離し、グランツと共に全力で倉庫から離れていった。


「追えッッ!! 逃がすなッッ!!」


 一方、逃げる二人へと追撃を仕掛けんと動き始めるレジスタンス達。

 弾を撃つのを辞め、奴等を追おうとする中、オークの重武兵がある物を踏みしめる。


「ん?」


 何だと思い、足を持ち上げるとそこにあったのは手榴弾だ。

 不味い、退避行動を取ろうとしたその時、オークは視界に入れてしまう。

 あのダイナマイトの木箱を。


「――あ」


 オークは瞬時に理解した、奴等の戦略と自分達の愚かさに。


「退――」


 せめて犠牲者でも減らそうと命令を下した瞬間――手榴弾が破裂した。


 

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2025年12月31日 20:00
2026年1月2日 20:00
2026年1月9日 20:00

英雄よ、我等の刃にて死ね  Yujin23Duo @jackqueen1997rasy

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