第47話 昴と咲良の罪

「年が明けちゃいましたね。明けましておめでとうございます、昴さま。今年は会いたいです」


 一月一日。咲良はそろそろ働きに出ようと思っていた。

 出雲に行った後、彼女は全国の狼神社を回って、最後また奥多摩に行った。隠り世で迷惑をかけているだろうことを詫びて回ったのである。昨夜、帰ってきたばかりだ。


 もう、貯金は底を尽きかけていた。


 これから買い物に行くので、果物でも買ってきてお供えしよう。「また来ますね、みかんでも買ってきます」咲良は社に一礼すると、社に背を向けて鳥居をくぐった。


 そして、鳥居にも一礼しようと振り向いたその時だ。


 咲良の息が止まりそうになった。

 鳥居の向こうに、山犬姿の昴の姿があった。

 ちょこんとおすわりして、咲良を見て尻尾をゆるゆると振った。


「明けましておめでとう。咲良がここに帰って来るのを待っていた」

「昴さま……」


 腰を上げた彼は、そのまま鳥居を通ってこちらにやってきた。咲良はその場に膝をついて両腕を広げた。

 彼は山犬姿のまま咲良にすり寄ってきた。もふもふの首筋に顔を埋める。


「ありがとう。おぬしのおかげで出してもらえた」

「やっぱり捕まってたんですね」

「ああ。牢に入れられていた。判決が出た。俺は一生罪を償うように言われた。おぬしも同罪だ」


 罪、一体なんだろう。顔を上げると、彼は人の姿になっていた。ああ、なんて痩せてしまったんだ。咲良は手を引かれて立ち上がる。


「おぬしに寿命を半分与え、一生監視するようにと言われた。咲良が現世に行く時には、誰かしら付き添うことと言われた」

「つまり……」

「改めて……」


 昴は一度言葉を切った。彼は咲良の手を両手で握った。彼女は、昴の真剣な眼差しを見上げる。

 形よい唇が言葉を紡いだ。


「武蔵国の昴、上條咲良に妻問い申し上げる」

「……はい!」


 涙で彼の顔が歪む。自然と顔を寄せた。鼻筋が触れ合う。

 目を閉じると、頬に涙が伝った。


「ありがとう、咲良」


 唇が優しく重なった。唇が離れると、彼は小さく言った。


「またこちらに戻ってきてもいいが、とりあえず……今夜は泊まっていかないか?」

「ぜひ!」


 彼は懐から何か取り出した。ブレスレットに見える。黒い勾玉がついていた。手形である。


「牙で作ったものはまたのちほど渡そう」


 彼は咲良を促した。ひとりでは、この手形では通れないのではなかろうか。


「大丈夫だ、先に入ってみろ」


 言われて、咲良は足を踏み出した。目を閉じてそこを通る。目を開ければ、目の前には錦屋の門があった。


「え、どうして……」

「話すと長い、今夜ゆっくりと語ってやろう」


 彼がそう言って、咲良をそっと抱き寄せると、門が開いた。


「さく!」


 大勢の声が重なった。隆爺に、おと、粋。それから要にたき、他の皆に取り囲まれた。

 昴が笑みを浮かべて言った。


「おかえり、咲良」

「ただいま、戻りました」


 帰ってきたのだ。咲良は昴の胸元に顔を埋めた。

 空からはちらちら粉雪が舞い降りてきていた。

 一年前、隠り世に迷い込んでしまった、あの日のように。




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