命令
真紗美
第1話
「命令!命令!命令!」
昼休み5年2組の教室で、
命令されているのは私で、痩せっぽちの小さな体をもっと小さくして自分の机から動けず固まり踏ん張っていた。朝日は手下を抱えて私の目の前に立っている。
朝日は力も強く乱暴で、変に頭もいいので誰も勝てない。たまに先生でさえ口で負けていた。担任は『友達感覚で仲良くしようね』と私たちに最初挨拶をした、ピンクのカーディガンがお気に入りの若いお姉さん先生で、いじめられっ子の私としては『これはダメだ』と最初に思ってしまった。
私は朝日のターゲットだ。私の他にもいるけれど、最近のお気に入りは私みたいでよく絡んでくる。うちの両親が朝日の親の工場で働いているのも原因かもしれない。『逆らったらあんたの親をクビにする』が決まり文句だ。男子はおちゃらけているし、女子は自分の身に降りかかるのは嫌だからスルーしている。きっと私も立場が逆なら、同じことをするから、みんなを責めることはできない。でもつらい。苦しい。毎日がウザくてあきらめの日々だ。
今、朝日のマイブームは【命令ごっこ】だ。『命令!命令!命令!』って言って無茶ぶりをする。自分の教科書を2階の窓から捨てろとか、トイレの水で顔洗えとか、授業中先生のお尻を叩けとか、くだらないことだけど、おかげで私は学校の問題児と呼ばれているらしい。今日の命令は何だろう。早くこの命令ブーム終わって欲しいよ。昨日は『髪を切れ』って言われて、ハサミが怖くて動けなくなりベリーショートにされて、家に帰ったらお母さんが驚いたからこっちが慌ててごまかして、整えたらベリーベリーショートになってしまった。朝日の顔よりお母さんの驚いた顔の方が切なくて苦しかった。
「今日の命令は2階の窓から落ちろ!」朝日はそう言った。私も周りのみんなも「え?」ってなった。それが面白くないのか、朝日は乱暴に私の腕をつかんでグイグイと教室の窓から私の身体をあお向けに押し出そうとする。目が血走っている。あちこちで上がる悲鳴にあきらかに興奮していた。「先生呼んでくる!」
打ち所が悪くて、死んでしまった。
死んじゃったけど、私はまだ教室にいる。家にも帰れる。お母さんとお父さんと妹には謝っても謝りきれない。たまに夢に出て慰めてあげる。こんなにあっけなく落ちて死んじゃうとは思わなかった。ごめんね。『思いがけない』ってみんな言ってるけど、本当にその通りの言葉だと思った。油断しちゃダメだね。みんな気を付けてね。ヤバいヤツからは逃げようね。クラスのみんな泣いてくれた。謝ってくれた。でも、大人の事情ってやつなのか、事故ってことになった。ふざけていて私が落ちて、朝日が助けようとしてたけどダメだったって。美菜ちゃんが泣いて『違う』って言ってくれたけどダメだった。美菜ちゃん、次の児童会選挙は私が絶対当選させてあげるからね。担任はずーっと私の名前を呼んでメソメソ泣いていた。私の事を何も知らないのに泣かれるのが嫌で、全校集会でスカート引っ張って落としてやった。パンツ見えてスッキリしたから許してあげる。
朝日は大人しくなったけど、また普通に戻っていった。だから窓際に立っていた時、外から引っ張って落としてやった。意識不明の重体になった。
身体は意識不明の重体でも、朝日の意識は私と一緒にいる。一緒に遊んでいる。
私たちは真っ暗闇の中で永遠に落ちる遊びをしている。私は絶叫系マシンが大好きだからとっても楽しい。首が折れて変な方向に崩れた顔があるけれど、朝日の背中にしがみついて楽しくて笑いが止まらない。
楽しいね朝日。でも朝日はずーっと叫んで泣いている。ずーっとずーっと落ち続けているからだろう。永遠に落ち続けるエレベーターな感じで、足なんてもうパンパンに膨れて腫れて爆発してるかも。ずーっと真っ暗で落ちてるんだよ。なんて楽しいんだろう。「やだー!怖いー!助けて!!お願い許して下さい!」って叫んでるけど
「命令!命令!命令!一生許さない」私は朝日の耳元でささやく。
楽しいね。ずーっと一緒に遊んでようね。
【完】
教訓:あきらめないで逃げましょう。
命令 真紗美 @miodama
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