あの時見たものは……?

仁志隆生

あの時見たものは……?

 俺が高校生の時だった。


 近所にある10階建ての古いビル。

 俺が物心ついたころから空きビルで閉鎖されているが、取壊されずにいる。

 いや一度解体工事しようとしたそうだが、なぜか怪我人が続出したんでそのままになったとか。

 だからあそこは呪いのビルだと言われている。

 そんなだから肝試しに来る奴もいるが、たいていは涙目で逃げ出すという噂もあった。

 そして……。




「呪いなんてあるわけねーだろ。な、行こうぜ」

 親友のれいが肝試しをって時季外れな事を言いだした。


「あのな、呪いはともかく不審者が潜んでるかもしれねえだろが」

「俺が拳法やってるの知ってるだろ。そんなのはぶっ飛ばしてやるってば。そんでどうする、すばる?」

 零が俺に聞いてきた。


 正直怖いが、興味もある。

 もし不審者がいてもまあ、零がいれば……。

「……行く」

「お、そうか。じゃあ今夜10時にビルの前でな」


――――――


 約束の時間ギリギリに零が来た。

 冷たい風が吹いていて、ほんと時季外れだわ。


 ビルは正面がフェンス、他はブロック塀で囲われている。

 入るにはどこかからよじ登らなければだが、


「ねえ、どうやってビルの中に入る気?」

「ああ、前に来た事ある奴に聞いたんだけどさ、裏手の窓が開いてるんだとさ」

 零がビルを見ながら答えた。

「え? そいつはなんともなかったの?」

「入った瞬間に怖くなって逃げ出したってさ。今日も誘ったが絶対嫌だって言うし」

 ……そいつなんか隠してる気もするが、少なくとも呪いではなさそうだ。


 そして俺達はフェンスを越え、裏手に回って件の窓の所まで来た。


「お、ほんとに開いてるな。もし違ってたら窓割ってでもって思ったぜ」

「それは犯罪だろ」

 俺が零にツッコむと、

「侵入してる時点で犯罪だぞ」

 ……そうかも。




 俺達はその窓から中に入った。

 外よりヒンヤリとして、当然だが暗い。

 持ってきた懐中電灯を点けてそれを照らすと、見事に何もなかった。


「なあ、10階まで行ってみるか? 噂じゃそこが一番アレらしいし」

 零が部屋の端の方に見える階段を照らして言った。

「いいけど、途中で床崩れたりしないかな」

 俺が言うと、

「そこまで古くないだろ。じゃあ先に行くから」

 零が階段を昇って行ったので、俺も後に続いた。




「ふう、しんど……」

 各階を見て回り、何事もなく10階に着いた。

 そのフロアにも何もなかった。


「やっぱ呪いもなんもなかったな。ようはたまたまビビりなのばかりが来てたって事だな」

 零がフロアを見ながら言った。

「かもね。じゃあ帰ろうか……ってあれ?」

「なんだよ?」

「今、窓の外光らなかった?」

「いや気づかなかった。車のライトじゃねえか?」

「それ、ここまで届く?」

「知らねえよ。まあせっかくだし、外を見てみようぜ」

「あ、うん。ここからならいい眺めかも」

 俺達は窓に近づき、それを開けて外を……。


「え、え?」

「な、なんだよこれ!?」


 辺り一面が焼け野原と化していた。

 遠くの方では燃え盛る建物が見える。


「ど、どうなってるの?」

「昴、あれ見ろ!」

 零が指した先には、黒くて大きな鳥のような……いや、戦闘機のようなものが飛んでいた。

 そして……。


「え?」

「こ、こっちに突っ込んで来る……って逃げろ!」

 俺達は階段へと走ろうとしたが、


 ドゴオッ!


「ウワアー!」

 間に合わず、そこで意識が途切れた……。


――――――


「そんな事もあったなあ」

「あのね、あれはほんと怖かったよ」


 あれから10年。

 俺達は久しぶりに会って、居酒屋で飲みながら思い出話をしていた。


 あの時、気がついたら元の静かなフロアのままだった。

 外を見ると焼け野原じゃなく、家や遠くのビルの灯りが見えていた。


 あれはなんだったのか?

 夢にしてはリアルすぎだし、二人共同じ夢をなんてあり得るか?

 しばらくそう話していたが、もう夢という事にしておこうとなった。


「あのさ、少し後で思ったんだけど、あれってもしかすると戦争があった頃の人が見せてくれたものかも。もうこんな事を起こさないようにってで」

 俺がそう言うと、

「俺は逆の事思ったよ。もしかすると未来の出来事だったんじゃって」

 零はジョッキを置いて言う。

「え?」

「だって燃えてた建物は現代風だったぞ。あと戦闘機は詳しくないけど、昔っぽくはなかったぜ」

「……そうだったかも。けどもしそうだとしたら、いったいいつ?」

「さあな。もっと先か、あるいは」


 キャアアー!


 女性の悲鳴が聞こえてきた。


「え、何?」

「あ、あっちみてえだぞ!」

 零が指す方を見ると、なんか人だかりができていた。

 時々「嘘だろ!?」とか「デマじゃないの!?」とか聞こえて来る。


「なんか只事じゃねえみてえだぞ?」

「零、どうする?」

 俺達が話していると、集まってた人達が一斉に出口に向かって走り出した。


「昴、これかなりヤバい事だぞ!」

「う、うん!」

 俺達も出口へと向かおうとしたが、


「あ、あの、置いてかないで」


「え?」

 声がした方を見ると、おそらく悲鳴をあげたと思う女性が真っ青な顔でへたり込んでいた。

 いや、いくらなんかあったからってたぶん仲間だろ、置いていくなよ。


「昴、俺が彼女担ぐから荷物持ってくれ!」

 零が女性に近づきながら言った。

「うん!」


 そして零が彼女をおんぶして尋ねた。

「あの、いったい何があったんですか?」

「……戦争が始まった、そうなんです」

 

「え?」

「それで、某国から核ミサイルが発射されて、落ちるのがこの辺りって」

 その女性が震えながらスマホを見せてくれた。

 そこにはたしかに世界大戦勃発と……。


「そ、そんな事が……あっ!?」

「ま、まさか!?」

 俺達が声をあげた時だった。


 ドォーン!


 音が聞こえたと同時に、真っ暗になった。

 そして意識が途切れた……。

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あの時見たものは……? 仁志隆生 @ryuseienbu

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