竜骨ラーメン始めました
太刀川るい
第1話
「すみません。この竜骨ラーメンってなんですか?」
俺がそう聞くと、ねじり鉢巻きの店主は、機械の目を光らせながら
「それねぇ。新しく始めたんよ。恐竜の骨を使ったラーメン」と答えた。
「といっても本物じゃないんだよな。バイオテクノロジーだかなんだか。かなり混ぜものしているそうだよ。ほら、鳥とかなんとか」
店主は、そういうと、まあおじさんには難しい話なんだけどねと肩をすくめて見せた。
確かに、そういう話はネットニュースで読んだことがあった。琥珀に閉じ込められた恐竜のDNAの断片を取り出し、子孫である鳥の遺伝子を参考に、元の形を復元する。元の形がはっきりわからない以上、図鑑の復元図みたいなものだけれども、まあ当てずっぽうよりはそれらしい。
で、現代に恐竜を復活させた……という話だったはずだが、それからの話は聞いたことがなかった。一体どうなったのだろうか。
「なんでも最初はなんたらパークを作って観光資源にする予定だったそうなんだけど、事故が続いたのとバブルが崩壊したので結局ポシャったってよ。で、精肉にして売ることにしたらしい」
なるほど、極めて資本主義的な話だった。つまり、資産の売却というわけだ。俺は、早速その竜骨ラーメンを注文すると、手際よく運ばれてきた丼を前に割り箸を割った。
ふむ、見た目は普通のラーメンだな。チャーシューの代わりにささみ肉のようなものが入っているが、これが恐竜の肉なんだろうか。他にはバイオメンマとネギと煮卵というオーソドックスな具材が入っている。透明なスープには細麺が綺麗に畳まれて入っていた。
「何しろ俺も恐竜を料理するのは初めてだからね。とりあえず骨で出汁とってみたのよ。実際、癖はなくて結構食べやすいんじゃないか?」
店主の説明を聞きながら、スープをレンゲで口に運ぶ。目を閉じて塩だけのシンプルな味の向こう側に思いを馳せると、見えてきたのは……うん……なんだろう鶏?いや、思ったより鶏の遺伝子強いなこれ。
考えてみると、当たり前か。鶏の遺伝子で修復しているんだし。確かにワニ肉とかワニ出汁もこんな味にはなった記憶がある。でもここまで鶏に似るとは予想外だ。鳥と言っても、ダチョウも鶏も鴨も全部出汁の味は違うわけで、恐竜出汁もやっぱり鶏とは微妙に違うけれども、それでもなんとなく夢が壊れた気がする。
麺をすすると、次は上に乗っている肉だ。店主に確認を取ると、やはりこれも恐竜の肉ということだが、口に含むとこれがかなり旨くて驚いた。鶏肉のパサパサ感がなく、油でしっとりとしている。
「なるほど、これはそれなりにいけそうですね」
「だろ? 確かに味はいいんだよな。でもコストがなぁ……」そういうと親父は難しい顔をした。確かに竜骨ラーメンは他のラーメンに比べて倍ぐらいする。生産方法が確立されている他の肉に対して、コスト競争で挑むのは難しいのだろう。珍味としては話題になるかも知れないが、莫大な費用をかけて珍味を作ってもなぁ……と悩んでしまう。
まあ、企業である以上、かけた費用はこうして少しでも回収しなければならない。スープを飲み干すと、俺はごちそうさまと言い残して屋台を後にした。
まあ、そこそこって味だったな。そう思いながら空を見上げると、空には無数の光の点が踊っている。地球を周回する人工衛星も大分増えたものだ。今じゃどれが人の作った星で、どれが天然の星かわからなくなっている。食べ物もきっとそうなるのだろう。
「俺達も遠い未来に誰かにこうやって食われる時がやってくるのかねぇ」
俺は腹を擦りながら、太古の昔の地上の支配者に思いを馳せると、帰り道を急いだ。
竜骨ラーメン始めました 太刀川るい @R_tachigawa
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