漆黒に染まるバラ
醍醐兎乙
漆黒に染まるバラ
僕は彼女にプロポーズをするため、彼女の家に向かっていた。
手に持った紙袋には特別なバラの花束が入っている。
5年前、彼女と一緒に研究して生み出した、思い出の花。
このバラは触れている人の感情によって花弁の色を変える、僕達の集大成。
喜びや愛情、情熱を感じていれば暖色系に色を変え、反対に悲しみや嫌悪、苦しみを感じていると寒色系の色に変える。
このバラが完成した時に彼女と見た、光り輝くような山吹色を、僕は忘れることはないだろう。
彼女と共有できる唯一の思い出に浸り、心を温めていると、いつのまにか彼女のマンションにたどり着いていた。
僕は立ち止まり、彼女のマンションを見上げる。
1分経ち、3分経ち、5分が経った。
「……緊張する」
無意識に本音を漏らす。
どうやら自分が思っている以上にナーバスになっているようだ。
落ち着かず、僕は視線を彷徨わす。
すると、手に持った紙袋から顔を出している純白の花束が目に入った。
誰にも触れられていないバラは、何からも影響を受けず無垢な色をしている。
僕は紙袋から花束を取り出し、今の自分の感情をバラに尋ねた。
12本のバラは僕の思いを吸い取り、花弁を淡い青に染めていく。
僕と彼女と子供とも言えるバラたちは、僕の心を正確に見抜き、正直で無慈悲に現実を突きつけてくる。
目をつぶり、ゆっくりと深呼吸をした。
バラから漂ってくる甘く華やかな香りのおかげで、僕の不安はゆっくりと溶けていく。
それはさながら、我が子からの声援のようだ。
「……そうだ、プロポーズに青いバラはむしろ望ましい」
青いバラの花言葉。
『夢叶う』『奇跡』『神の祝福』
そして11本のバラの花束の意味。
『最愛』
「これ以上が無いほど、まさに奇跡的な状況だ!」
そんな僕の感情の変化を読み取り、薄っすらと赤みが差し始めた我が子。
僕はあわてて彼女のマンションに走り込んだ。
オートロックを事前に用意しておいた合鍵で突破し、調べておいた彼女の部屋までたどり着く。
これまでの彼女の生活パターンを考えると、間違いなくこの時間に彼女は部屋の中にいる確信があった。
「ここまで来るのは初めてで、緊張が戻ってきたな」
普段はマンションの外から見守っているだけなせいか、心臓の暴走が抑えられない。
「彼女と会話するのも、この子が完成して以来か……」
手に持った我が子は、僅かにあった赤みが消え、より更に青が濃くなっている。
濃く、濃く、濃く。
その感情は青と言うより黒。
すべてを塗りつぶす、漆黒のバラ。
元研究者の僕は、5年ぶりに対面する、元同僚の彼女にプロポーズをするため、作っておいた合鍵で鍵を開け、ゆっくりとドアノブを回した。
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漆黒に染まるバラ 醍醐兎乙 @daigo7682
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