鬼の目

学生作家志望

邪魔

ある朝、いつも通り誰もいない教室に入り自分の机にリュックを置いた。するとリュックの下半分にチョークのようなものが付着していた。その時になってようやく気付いた、机がまっしろだ。


ペンをたてて、勉強をするようなスペースはない。

いじめがエスカレートしているのだろう、そう感じた。


黒板用の子帚|≪こぼうき≫とちりとりを用具入れから出して、消しカスを集めるようにはじに寄せて集めた。別に悲しさは感じない、ただ邪魔というだけ。


僕は世間一般的に言えばいじめられっこという、かよわい立場に立たされている、そんな学生である。でも別に僕はなんら怖くもない、泣いたりもしない。いじめをしてくるやつらは僕よりも弱い奴らだから、まったく怖くない。


先生に相談をする時間も無駄だ、勉強をしてもっと頭が良くなるように努力したほうがよっぽどいい。だから僕はあいつらのことを両親にも先生にも誰にも言っていない。


むしろ楽しみなくらいだ、今日はどんなことをしてくるのかって。



「おい、お前こっち来いよ。」



昼休み、僕は突然近づいてきたそいつらにトイレに連れ込まれ、バケツ一杯の量の水をかけられた。


「うわやっばきたねw」


ワイシャツからズボンまでずぶ濡れになってしまった。髪から水がしたたり落ちて、前が見えなくなった。冷たい水は勉強をする手も濡らす。


「邪魔。邪魔。」


邪魔だ、勉強をする時間がなくなる。こんなの拭いていたら無駄な時間が生まれてしまうだろうに。


「なにお前wしょうもな」


ハンカチで手を拭いていると腰あたりを蹴られ僕は頭から床に転んでしまった。痛かったけど手を拭くことができたからと思って、トイレのドアを押してぼくは教室に戻った。


髪から水がたれて笑いものにされた。それでもペンをもって勉強をする。勉強は大嫌いだでも、全ては自分の未来のためだ。あんなやつらと格差をつくるためだ。文字を書いて、文字を書いて、邪魔は消す。


勉強をしているだけだったのに、僕を見た先生は僕を放課後に職員室に呼びつけた。


「なんか困ってることとかない?」


「大丈夫です。」


「本当に小さいことでもいいから、話してほしい。」


「大丈夫です」


「じゃあカウンセラーの先生とかに相談をしてみたらどうだ?先生には話せないことでも・・・・・・」


「だから、いいって言ってますよね。わかってください。」


「おい!」


誰かもわからない人が写っているポスターを渡されて、いよいよしつこいと伝えた。ドアの前に置かれたゴミ箱に破ったポスターを投げ入れ、廊下を走った。



走りつかれるとあっという間に夕方のいつもの道についた。早く帰って勉強をしなければならないのに、息があがってしまいまともに走ることができなかった。


帰らなきゃ怒られちゃう、こりごりだ、これ以上怒鳴られながら机に向かうのは。そうなってしまう前に帰らなきゃ。



「がんばってるね、いっつも。」


さっきまで僕以外の影はなかったのに、巨人のように伸びる影が後ろから突如現れた。


知らない声だ、その声を振り切ろうと家に早く帰ろうとするがやっぱり足は動かない。石で固められたように、まったく動かなかったのだ。



なんで、おかしい。本当に一歩も動かない。そんなわけない、でも。



「どうして逃げるの?怖い?それともほかに理由でもあるのかなー。」


子供のような口調で馴れ馴れしく喋ってきたが、声は野太くて暗い不気味な声をしていた。


「邪魔なんだ、勉強を・・・・・・」



「知ってるよぜんぶ。邪魔なやつらがいるんでしょ、勉強をしたいのに真面目に頑張っている君がなんでか邪魔をされる。おかしいと思う。」


学校のだれか?クラスの誰か?それとも先生か?いや、こんな声の奴はいない。絶対に、人間の声じゃない。



「鬼の目だよ。君の足が動かないのはそのせいなんだ、ごめんね、でもその分君に明日いいことを起こしてあげる、君にとってはすごくハッピーなことだよ。」



鬼?馬鹿なのか?何を言ってるんだ。いや、僕がおかしいのか?おかしくなったのか、なにが起きて・・・・・・・



「わっ・・・・・・!はあ、はあ、はあ、、」



冷えた部屋の床で僕は死ぬように横たわって寝ていた。夢だったのか、現実だったのかはよくわからない。だが、ワイシャツがまだ濡れたままベランダに放置されているのを発見してしまった。



ほかのワイシャツを着てズボンは少し冷たいままだったが、僕はいつも通りの時間に家を出た。しかし奇妙なことが起きた。


いつもならまだ誰も来ていない学校の門の前に多くの生徒が集まっていた。生徒は全員、口を抑えて同じ方向に視線を集中させていた。


「邪魔。」


生徒の間をくぐり抜け、門に近づいていった。すると、視線を浴びるそれが僕の視界にも入り込んできた。


「え?」



頭から大量の血を流し、空を見上げ倒れていた生徒がそこにいた。


そいつは僕に水をかけ、腰を蹴ってきたいじめの主犯格だった。着ていた制服が真っ白になっていた、チョークの粉だとすぐにわかった。


「次は、誰が邪魔?」


野太い暗い声で、耳元に言葉を吐かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼の目 学生作家志望 @kokoa555

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ