摩耶山の夜景に誓った、二度とは戻らぬ約束

高橋健一郎

第1話

タイトル: 摩耶山の夜景に誓った、二度と戻らぬ約束


第一章: 出会いと初めての誓い


神戸の街を見下ろす摩耶山の頂上に立つと、あたりは一面の夜景で満ちていた。冷たい風が髪を揺らし、ふと目を細めると、無数の光が街を包み込み、まるで星空が地上に降り注いでいるように感じられる。悠真はその美しい景色をぼんやりと眺めていた。彼にとって、この夜景はとても特別なものだった。


「こんなにもきれいだったんだ…」


悠真の心は、久しぶりに感じる安心感と共に、少しずつ温かさを取り戻していた。しかし、その一方で、心の奥にはある不安が静かに広がっていた。――今日は、ただの散歩のつもりだった。でも、こうしてひとりで夜の摩耶山に来ていると、心の中で何かが変わりつつあることを感じる。


「どうしても、彼女に会いたくなったんだ…」


ふと、悠真は足元に目を落とす。その時、視界の隅にある白いスカートが目に入った。彼の視線がそのまま向かう先には、摩耶山の展望台のすぐそばに立つ少女――橘さくらが、静かに夜空を見上げている姿があった。


「えっ…?」


悠真は、足を止める。さくらは、悠真に気づいていない様子で、ただぼんやりと空を見上げ続けている。彼女の姿は、どこか不安げで、優しさを湛えたまなざしが不安を隠しきれずに浮かんでいた。


どうしてこんなに気になるんだろう。


心の中で思う。悠真は、さくらの姿を見つけた瞬間、自然と足がその方向に向かっていた。


「…さくらさん?」


突然、悠真が声をかけると、さくらはびっくりしたように振り向く。目が合うと、彼女は少し驚いたように目を見開き、そしてすぐに微笑んだ。


「悠真くん、こんなところで会うなんて…びっくりした。」


「僕も驚いたよ。こんな夜景を一人で見てるなんて、どうしたの?」


さくらは少しだけ笑みを浮かべたが、その目の奥にはどこか寂しさが滲んでいることに、悠真は気づく。


「うーん、ただ…少し、考えごとをしていただけ。」


その言葉に、悠真は少しだけ心が引っかかる。さくらは無理に明るく振る舞っているように見える。でも、その笑顔の裏に、何か深い秘密があることを悠真はなんとなく感じていた。


「何かあったの?」


「別に、たいしたことじゃないよ。」


さくらはそう言って、再び夜景に目を向ける。悠真は、何も言わずに彼女の隣に並んで立つ。しばらくの沈黙が二人を包む中で、悠真はふと、これまでに感じたことのない感情が心の中に芽生え始めていることに気づく。


彼女がどうしてこんなに気になるんだろう。


悠真は、少しずつ心の中でその思いを深くしていく。


「さくらさん、もし…よかったら、少しだけ話さないか?」


しばらくの間、さくらは黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「話してもいいけど…でも、何を話せばいいのかな。」


悠真は思い切って言葉を続ける。


「君が感じていること、何でも聞きたい。僕にできることがあったら、言ってくれ。君が少しでも楽になれるように…」


さくらはその言葉を聞いた瞬間、ほんの一瞬だけ目を伏せ、そして静かに答えた。


「ありがとう、悠真くん。でも…私、どうしても一歩踏み出せなくて。」


悠真はその言葉を聞いて、ますます心が揺れ動く。さくらは過去の経験に深く傷ついていることが分かる。しかし、その傷を抱えているさくらの姿が、悠真の胸を強く打つ。


「さくらさん、君は一人じゃない。僕がいるから。」


その言葉を口にした瞬間、悠真は自分の気持ちに確信を持った。そして、さくらもそれを感じ取ったのか、少しだけ微笑んだ。


「ありがとう、悠真くん…」


その言葉が、悠真の胸に深く響く。二人の間に流れる静かな時間が、まるで運命のように感じられる瞬間だった。


次回予告


悠真とさくらの心の距離は、少しずつ縮まっていく。しかし、さくらの過去に隠された秘密が、二人を試すことになる。そして、二人の関係が新たなステージへと進む時が迫る…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

摩耶山の夜景に誓った、二度とは戻らぬ約束 高橋健一郎 @kenichiroh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る