第8話
『拝啓、大切な後輩へ
お前と初めて会ったのは、俺が大学3年生で君が1年生の時だったね。あの時はまだ君がぎこちなくて、真面目で、少し不器用なところが印象的だった。
あれから時が経って、俺が社会人になってからもまたお前と同じ会社で再会して、こうして先輩後輩として一緒に働けるようになった。正直、最初は驚いたけど、すぐに嬉しさが勝ったのを覚えている。
お前は俺にとって、ただの後輩じゃなくて、大切な存在だ。いつも俺を助けてくれて、本当にありがとう。
ここに書くことを許してほしい。俺はもうお前とは一緒にいられないかもしれないけど、お前のことを大切に思っている。
ありがとう。そして、好きだ。
いつかのどこかの誰か』
書き終えた内容を改めて読み返し、裏返す。その手元で昴がスマホをいじりながら「あー、沖縄ってこんな場所なのか」とぼそっと呟く声が聞こえる。
ハガキの文章を見て、自分の勢いに任せた行動に首を傾げるも、「ああ」とすぐに納得する。
――きっと、言葉の居場所が欲しかったんだ。
誰にも言えない、何重にも鍵をかけて心の中を揺蕩っているだけのこの言葉に、居場所を作りたかった。
そんな時に出会った漂流郵便局というものが、俺にとってはひどく救いに見えた。
きっと、声が出なくなったのはこのせいだろう。確実ではなくても、俺の中でそれが理由として一番最初に浮かぶ。
ハガキを出したら何かが変わるかもしれない、そんな淡い期待もあった。
そんな時、「そうだ」と昴が顔を上げた。
メモ帳を出すのも面倒で、俺はただ相槌を打って続きを促す。
「なあ、碧斗」
"?"
「せっかくだし、休み取れよ」
"なんで"
「休むなら2日も1週間も変わんねえだろ」
"変わるだろ"
「細かいことはいいんだよ。今はそこまで忙しくないだろ?」
まあ、確かにそうだけど。
「だったらさ、行ってこいよ、旅行に」
"どこに?"
「どこって、そりゃ決まってんだろ」
昴は俺の書いたハガキを見て、ニヤッと笑った。
「漂流郵便局だよ」
漂流郵便局 @tsukimine
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