第7話

「やっほー、碧斗どう?」



手をひらひらさせながら病室に入ってきた昴に、軽く手をあげて応える。隣の棚からメモ帳を手に取った。



「声は、まだ?」


『ストレス性だってさ。最近は忙しかったけど、特にストレス溜まるようなことしてないのに』


「碧斗が自覚してなくても溜まってたんだよ。休んどけって」



ビシッと指を向けられて渋々頷くと、「柊也くんから電話来た時、俺も焦ったんだからな。少しは休むこと覚えろよ」とお叱りの言葉をもらった。そう言いながら、はいこれ荷物、と2日分の荷物を詰めた鞄を渡される。



『ハガキ持ってきてくれた?』


「まずはありがとうだろ」


『荷物ありがとう』


「はい、どういたしまして。ハガキ持ってきたよ。急にどうしたのかと思ったけど」


「何に使うの?」と昴が尋ねるので、家で最後に見ていたスマホの画面を見せる。


「漂流郵便局?」



「手紙出すのか?」と興味津々に覗き込む昴に頷くと、へえ、面白いもの見つけたな、とスマホをスクロールしながら言った。



「漂流郵便局って実際にあるんだな。香川か?」


『俺もあんまり詳しく調べてない』


「へえ、ハガキだけしか出せないんだ。おもしろいな…」


「そんじゃ、お前はハガキでも書いてろよ。俺はちょっと詳しく調べてみる」



そう言って昴は部屋のパイプ椅子に腰を下ろし、スマホをいじり始める。その横で俺は手にペンを握った。


手紙の書き方なんて覚えていなくて、ハガキと切手を前にペンをくるくる回しながら、何て書こうか頭を悩ませる。


誰にも届かないなら、少しだけ本音を書いてもいいかもしれない。…ちょっとだけなら許されるだろう。

そう自分に言い聞かせて、再びペンを握り直し、ハガキに書き始めた。

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