第6話

俺が悪くないっていうのは、ちょっと違うよなぁ……


心の中でぼそりと呟く。少なくとも、この原因に心当たりがあるのは事実だ。多分、俺が悪い。だからこそ、治らない可能性が高いって思ってる。どうやって謝ろうかな、とか考えてる。


なんて、声が出ても柊也には言わないけど。


大人しく手を引かれながら歩いていると、ふと、自分たちを病院まで送ってくれたはずの人間の姿が見えないことに気づく。

俺は柊也の背中をとんとんと叩いて、振り返った彼にわかりやすいように口を動かした。


す・ば・る・は?



「ああ、昴さんなら、碧斗さんが眠ってる間に泊まり用の荷物を取りに行くって言ってましたよ。それから、僕もこの後打ち合わせがあって…」



ほんとはもっと居たかったんですけど、と申し訳なさそうに眉を下げる柊也。その背中を軽くバシバシと叩き、「がんばれ」と口の動きだけで伝える。するとちゃんと汲み取ってくれたらしく、「ありがとうございます」と笑顔を見せた。



「それじゃあ、僕はここで失礼しますね」



「ちゃんと休んでくださいよ」と念を押してから、柊也は手を振って去っていく。俺も手を振り返して、柊也の姿が廊下の先で見えなくなると、踵を返して病室へ向かった。


歩きながら、ふと昴のことを思う。


――昴と柊也、仲が良くてよかったな。


昴は忙しい仕事の合間を縫って、何かと俺の面倒を見てくれる兄だ。柊也と面識ができたのは、1年ほど前。俺が仕事の後に2人を誘ってご飯を食べたのがきっかけだった。

その時、昴が柊也のことを「話しやすい人だな」なんて笑いながら言っていたのを思い出す。逆に柊也も「昴さん、面倒見が良くて素敵なお兄さんですね」と俺に言ってきた。

2人とも俺よりも社交的で、自然に打ち解けていたから、正直ホッとしたんだよな…。


スマホを手に取り、昴に連絡を入れようと画面を開くと、そこに目に飛び込んできたのは"漂流郵便局"の文字。

ああ、そういえば気になって調べようと思ってたんだっけ…。忘れてた。


そのまま少しだけページをスクロールしてから、トークアプリを開く。



『診察終わった』


『今からお前ん家から向かうよ。何か買うものある?』


『いや特には』


『わかった』


『あ、待ってハガキ買ってきて』


『ハガキ?』


『うん』


『何枚?』


『1枚でいいや』


『了解』



やりとりを終えると、スマホをベッドの上に置く。


柊也がいなくなったら声が出るかと思ったけど、喉を鳴らしてみても、何も変わらない。



「……。」



今は深く考えたところでどうにもならない。とりあえず昴が戻ってくるまで大人しく待つことにして、俺はスマホをポケットにしまった。そして、静かな廊下をゆっくり歩きながら病室へ戻った。

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