第5話
「ストレス性、ですか?」
俺の代わりに尋ねた柊也に、はい、と担当医らしい年配の医師が頷く。
「最近、業務が多忙だったとお聞きしました。それに伴う体調不良と、何かしらの精神的な要因が重なっているのではないかと思われます」
「…いつ頃治るんですか?」
柊也が真剣な表情で尋ねると、医師は申し訳なさそうに眉を下げた。
「体調自体は2、3日ほど入院していただければ回復すると思います。ただ、声に関しては個人差がありまして…場合によってはカウンセリングも視野に入れていただいた方がよいかと」
こちらを向いた医師が「カウンセリングは受けますか?」と尋ねてきた。俺は首を横に振る。
「わかりました。では、とりあえず2日間の入院をお願いして、その後の経過次第でまたご相談ください」
「はい、ありがとうございます」
診察室を出ると、柊也が心配そうに俺を覗き込む。閉まるドアの音でぼんやりしていた意識が戻り、自分の状況が改めて頭にのしかかってきた。
――俺の声、いつ治るかわからないのか…。
「碧斗さん」
不安げな顔の柊也が、そっと俺の手を握り込んでくる。
ああ、仕事、どうしよう…。
部の進行中のプロジェクト、俺が中心で動かしている案件、全体会議のプレゼンもあるし…。まずは部長に謝罪して、関係者全員に説明して…。
そう思って「柊也」と呼ぼうとしたが、口から漏れたのは掠れた息だけだった。
「碧斗さん…」
そっか、声が出ないんだった。
――ごめん、ごめん、ごめんなさい。いつも俺が迷惑をかける。去年の締め切り前の体調不良の時だって、春の納期が遅れそうになった時だって、俺のせいで…。
「碧斗さん!」
肩を揺さぶられる感覚に意識が浮上する。瞬きを繰り返していると、眉間にしわを寄せた柊也の顔が目に入った。俺の肩を強く握りしめている。
「…誰も悪くない。碧斗さんも悪くないから」
俺も全然大丈夫だから、と穏やかに微笑む柊也。その言葉に、俺も少しだけ微笑み返すと、彼は安心したように息をついた。
「病室に戻りましょう。無理しないでください」
そう言って柊也は、優しく俺の手を引いた。
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