第9話
夏休み、川村が遊びに来た。
高松まで高速バスで来た川村を免許取り立ての春瀬が迎えに行き、助手席に乗せた。どういうわけか後ろに両親も着いてきた。
「みんな、緊張してない?」
「前向いて運転してほしいんやけど」
「向いてる」
「もっと前というかな」
「静かに」
「すんません」
川村は救いを求めるように後ろを見た。春瀬の母は農家の嫁らしく日に焼けてニコニコとしていた。父は川村と同じく緊張していた。あえて何も言わないようにしていたが、無意識に運転席をブレーキを踏むようにした。
「あつかましいですがお世話になります」
「広いだけが取り柄の古い家や。ゆっくりしていったらええ」と緊張気味の父。
川村の姿に笑いが込み上げてきた。さすがにいつもの彼ではなく、よそ行きの彼で生来のマジメさが溢れていた。ビジネスホテルに泊まるというところをムリに連れてきたのだ。
「何のおもてなしもできんけどね」
母が笑いながら、
「お父さんも緊張しててね」
「運転にな。川村くんは酒は飲めるのか」
「少しは」
「コインランドリーで倒れてたらしいな」
「お恥ずかしい」
「ほどほどにな」
三人で居酒屋に行くことになった。
男二人は酔いつぶれた。母は父を春瀬は川村を介抱して同じ部屋に放り込んだ。翌朝を思うと春瀬も母もニヤニヤしていた。
コインランドリーでこころを読む人(9話完結) へのぽん @henopon
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