第2話 鯉のすむ調整池で溺れたショウくんの話

気が付くと、ボクの体は病院のベッドの上だった。

不思議なことに、上の方から自分の姿を見ていた。

今のようにね。


パパが叫んでいた。

「ショウ。ショウ。

死ぬな。死ぬなあああああああああああ!!」


ボクは自分の体に近づいた。

機械がついている。

テレビドラマでよく見る機械。

いろいろチューブがついていて、

液体の入った袋からもチューブがついていて、

でも、全然痛くないからいいや。


ママはボクの体におおいかぶさっている。

背中が震えている。

泣いているんだ。


「脳死ですって?!

嘘よ。

意識は戻ります!!

ねえ、ショウ、目を覚まして。

どうして、ショウはあんなところに行ったの?」

ママが叫ぶ。

パパは何も言わなかった。


あれからどのくらいたっただろう。

上から見るボクの体が、少しずつ大きくなっている。

髪が伸び、顔にひげも生えてきた。


ママは毎日話しかけてくれる。

「ショウ、指が動いた気がするわ」

「ショウ、今、笑ったでしょ」

「ショウ、海外のデータでは永い眠りの後で意識が戻った例もあるらしいの」

ママはラジオをつける。

「いつか目が覚めたとき、時代遅れにならないように流行りの曲を聴きましょうね」


ある日の夜、パパが話しかけて来た。

「ショウ。ごめん。

パパのせいなんだ。


パパには、山田ショウタという友達がいた。

ショウタと調整池に入って、鯉を捕る計画をたてた。

調整池には誰かが放流した鯉が大きくなっていて、

赤いのやら金色のやら、たくさん泳いでいたんだ。


あれは、夏休みのことだった。

大人には内緒で、夜中の12時、懐中電灯を持って、

水着に着替えて鯉を捕りに行った。


わくわくした。

禁じられた調整池だが

夜なら誰にも咎められない。

鯉をいっぱい捕まえて、

ショウタと二人で水槽で飼おうと思っていた。

ショウタもやる気だった。


パパはスイミングに通っていたから泳ぎが得意だった。

ショウタはパパより運動神経が良かったんだ。

サッカーでもドッジボールでもパパの10倍うまかったから、

パパくらいは泳げるだろうと思っていたんだ。


でも、違った。

ショウタは溺れてしまった。

バタバタもがいて『助けて』と言った。


でも、怖くて助けられなかった。

ショウタがしがみついてきたら、ふたりとも沈むと思ったんだ。

見ていると、ショウタはすうっと池の中に沈んでいった。

怖かった。

『死んだの? ショウタ!!』

って叫んだ。


そして、大人たちに叱られることを想像した。

もっと怖くなった。

パパは怖くて、急いで水から上がろうとした。

でも、あのコンクリートの斜面は滑るんだ。

すごく頑張って、やっと上ったパパは、

ショウタを助けなきゃいけないことに気づかなかった。

急いで家に帰って、

水着を脱いで眠ってしまったんだ。


次の朝、ショウタがいなくなったと騒ぎになった。

パパは叱られるのが嫌で、何も知らないと言い張った。

ショウタのお父さんお母さんが、

『知っていることは何でも話して、叱らないから』

そう言っても、怖くて言えなかった。


パパの両親は、パパを守ってくれた。

ショウタの死体が上がったときも、

『この子は一晩中家にいた』と守ってくれた。


ショウタのお葬式に行った。

祭壇のショウタは花に囲まれて笑っていた。


ボクは自分を守った。

『ショウタはボクの親友だった』

そういう作文を書いて葬式で読んだ。

学校の先生も友達も、地域の人たちも

その作文を聞いて泣いた。

声をあげて泣く子もいて、それにつられてまた泣く人がいた。


校長先生が言った。

『いい作文だった。親友が死んで辛いだろう』

誰も、パパの行動を疑う人はいなかった。

でも、ショウタのことを忘れたことはなかった。


ママと結婚して、男の子が生まれたとき、

ショウという名前にしたのは、ショウタへの罪滅ぼしの気持ちもあった。


大人になって、昔の友達とお酒を飲むときも、

パパは、ショウタの良い思い出を繰り返した。

親友を事故でなくしたけれど

親友を思い続けるいい奴と言われた。


だけど、もしかして

ショウタの両親は気づいていたのかもしれない。

そうだよ。山田のおじいさんおばあさんだよ。

許してくれショウ」



ボクはパパの話を聞いて、

山田のおじいさんおばあさんの気持ちを想った。

「パパ、謝るのはボクにじゃないよ。

山田さんにだよ」


何度も言ったが、パパには聞こえない。

パパが気づくまで、この復讐は終わらないんじゃないかな。


一月前、山田のおばあさんが、ママと一緒に来た。

ママは山田のおばあさんに封筒に入ったお金を渡している。

そして、出て行った。


どうやら、ボクを見守るアルバイトをお願いしたようだ。

ママはすっかりやつれ、心を病んでいるように見える。

入院でもするのだろうか。


そして、山田のおばあさんが、

ママの代わりに毎日来て

ボクに話しかけるようになった。


「お前は、父親の犯罪を知っているのか?

知らないだろう。

毎日ここにきて、話してやろう。

お前の父親は人殺しだ。

ショウタを見殺しにした。

だから、私たちは復讐をした。

長く生きてくれ。

見守りのアルバイトはいい収入になるからな」

そして、ボクの腕を思い切りつねった。


この頃、山田のおばあさんは、嬉しそうだ。

そして、だんだん若返っているように見える。

服も化粧も派手になっている。

満面の笑顔でラジオを付け、

流行の歌に合わせて

ハエたたきでボクの顔をたたく。


最近、パパは見舞いに来ない。

生きているのかどうか、わからないよ。

リホちゃん、聞いてくれてありがとう。

ボク、なんだかすっきりしたよ。

この体から遠く離れてみたくなった」


「ショウくん、確かに聞いたよ。

やっぱり、一番恐ろしいのは、人間じゃあああああ!」







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【ホラー】この世で一番恐ろしいのは  人間じゃあああ さとちゃんペッ! @aikohohoho

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