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こうもりじいちゃんが原稿用紙に書いたエッセイ 投稿しました

https://kakuyomu.jp/works/822139842591602897/episodes/822139842643928799

こうもりじいちゃんは、昭和十一年生まれ。西日本の、小さな島で生まれた。

戦争のさなかに、父と母を亡くした。詳しいことは多く語らないが、幼いころに背負った喪失の重さだけは、今も静かに伝わってくる。

戦後、その島にもアメリカ兵が駐屯した。じいちゃんは、チョコレートをもらった記憶を今でも覚えているという。甘くて、見たこともない味だったそうだ。

そのころ、じいちゃんは英語を覚えた。兄や姉に育てられ、学費も工面してもらった。西日本の大学に進学したときには、一つ年上の兄が、高校を出て銀行に勤めながら、学費を出してくれたという。

卒業後は、公務員として働いた。仕事を続けながら、ひそかに続けていたのが、こうもりの研究だった。休日には野山を歩き、洞穴を訪ね、観察と記録を重ねた。

公務員を退職したあとも、じいちゃんはじっとしていなかった。アルバイトをし、働き続けた。

今は、妻と二人暮らし。スマホも、インターネットも、もうやめた。日課は散歩と、原稿用紙にエッセイを書くことだ。

妻は、そろそろ終活を始めたいと思っているらしい。けれど、耳の遠くなったじいちゃんには、その気はあまりない。

今日も、散歩に出かけ、原稿用紙に向かう。まだ書きたいことがある。まだ、残したい記憶がある。

――こうもりじいちゃんは、今も生きることをやめていない。

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