ズレた認識とすりこまれた言葉

釣ール

もうやめてくれ!

 国立加珠也くにたてかずや十八歳じゅうはっさい


 誰も助けてくれないはずなのに治安がいい国に生まれて金がないので目だたない大学へ進学。


 二〇二五にせんにじゅうご年になって子供のころ観ていたものが過去になっていく。

 恋愛も何回かくりかえし、生活を充実させて次の彼女と将来を考えるために断捨離だんしゃりしていた。


 細かい世界の歴史やルールはわからないから決めつけはしない。

 いつの時代もマイノリティにはきびしく、差別も理不尽りふじんも労働もなくならない。


 資源なんて簡単になくなる。

 幸せなんて長く続かない。

 でもつかみたい夢はある!


 話を変えて国立くにたては身の回りで起きたことを経験に役立てた話をする。


 読書についてだ。


 小さいころに好きな女子がすすめてくれた本があった。

 インターネットを使わせてもらえなくてゲームもむずかしく、あまり同性どうせいの友達と付き合えなかった過去があった。


 当時は女子がおすすめしてくれた本だからという理由で読んでいたのでその時読んだ本がプレミアがつくほど価値がある作品とは知らなかった。


 本を読めばモテる。

 そんな思い込みでかたっぱしから小説を読んでいた。

 でも漫画を集める方が好きだったので子供心ながら『女の子にふりむいてもらえるのって大変』と感じた国立くにたてはいつの間にか一緒にいた読書仲間と関係をもち、さりげなく女の子にモテそうな要素を聞いて研究した。


 あとで国立くにたては知ったのだがその時好きだった女の子は本はそこまで好きじゃなく、国立くにたてにいらない本を渡しただけだった。


 実写化した作品や女子がしていたアイドルが好きだと言っていた本を読んであきていたらしい。


 国立くにたてはその事実を知らずに本を純粋じゅんすいに楽しんでいつの間にか読書好きになっていた。


 その時の女子とは付きあわず、読書仲間のつてで知った友達が彼女になった。

 本格的なオシャレはその時付き合った彼女から教わった。


 それでも読書仲間と遊んでそれほど苦しくなかったから高校生活が終わりかける今も関係は続いている。


 読書家になった理由が理由だからか読書仲間との関係はついていけず、腹が立つ時も多い。


 それに国立くにたて達は他の高校生は知らないと前置きした上で伝えるが一つの趣味を持たない。


 書店でならぶ自己啓発本やら人生論は選ばないで物語のある小説をインターネットで面白い発信者のおすすめから逆張ぎゃくばってマイナーな物語を選んだだけだ。

 その方が女の子にモテたから。


 好きで読書なんて誰もしてないし、いてもだまってやりすごすだけ。


 国立くにたてはガチめに小説を好きになってしまって他の読書仲間みたいにSNSで生きづらそうにしている誰かが引用した哲学本や仏教本にたいして悪口を言えなかった。


『どのコンテンツも優劣はない。でも長くは続かない』が国立くにたてのモットーだから。


 動画の方が面白いけど。


 教養なんて外へ出かけないと学べない。

 本もインターネットも映画もゲームも誰かの話も情報は一面いちめんに過ぎない。


 国立くにたては今日も書店をみまわって安い小説を買う。


 久しぶりに買った本。

 原作付きアニメから知った。

 漫画もある。

 小説投稿サイトか何かが最初だったかもしれないがうろ覚え。


「どっちだっていい」


 書店から出ていって高校生が終わりをむかえかけるからか絶縁ぜつえんした読書家をきどる一人の読書仲間が


「本は時代おくれ。今はアニメや漫画だよ」


 だと仲間達に子供のようにマウントをとって去っていった。


 自分の言葉かどうか今は分からない。

 コンビだったお笑い芸人の相方あいかたが解散する前にはく捨てセリフみたいな話なのは分かってる。


 きっかけはどうあれ仲間だと思っていたのに。


 それに漫画も書店で売ってるのに。


 衰退だかなんだかみーーーんな真似して語ってる。

 そりゃあ交通事故もトラブルもなくならない。


 このままでは買った本を読まずにドブへ捨てそうだったのでいそいでカフェへ入った。


 金もそんなに使いたくなかったので安くて健康な種類のコーヒーをたのんだ。


「まだ若いのに安いからってこんなメニューを飲むなんて面白い子。その本カバーつけてないからタイトルが見えたけど十代や二十代が読むには難しい話じゃない?」


 やけに話しかけてくる女性店員が国立くにたてを一瞬で分析ぶんせきした。


「もう大事な情報や新聞以外で文章にふれないので」


 女性店員はメニューを聞いたあとに国立くにたての元をさった。


 読書仲間とはちがう友達から連絡があり、断捨離だんしゃりについて愚痴ぐちっていた。


 もう本はアクセサリーにしようと考えていたけどそれならもっと別の方法にするか。


 友達への返信は一歩ふみこんだ内容にした。


「読書家なんてねえ! 読書家なんてしか言ってないからそれ以上はやめておくけどくだらねえ」


 どれもこれも、信用ならない。

 でも今入った ているカフェは大学生になってからもいきつけにしよう。


「俺もきりひらいていこう。読書の趣味しゅみは四番目ぐらいにして」


 今日もテレビやインターネットやSNSやブログで誰かが本をすすめてくる。


 もう好きな誰かが何をすすめても保留ほりゅうにするかもしれない。


 さっきの女性店員がコーヒーを持ってきてくれた。


「お姉さんがもう少し面白い本を教えてあげる。その本のネタバレはしないけど、難しい単語が多いからいらない辞書をあげる。古い辞書だからその本を読む時だけ使って。かさばったら捨てていいよ」


 本で始まり、また本に汚される。


 今日買った本と最初に読書をしたきっかけになったプレミア本だけは買おう。


 あとは社会人になってもモテるために本を武器にして生きていこう。


 いつか読書好きだった過去が無駄だった思い出にならないために。


 今日みたいな予測よそくできないサプライズをもとめて。


 はあ。

 やっぱり誰かがいったかしこさやかたよった自分の経験に飲まれないように気をつけていこう。


 小説も漫画もアニメも好きだから。

 下心したごころ

 分かってる。

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