世、妖(あやかし)おらず ー夢猿山ー
銀満ノ錦平
夢猿山
最近夢を見る。
何処かの山…多分テレビで見た場所だと思う。
私はその山道を歩いている。
深く深く、山々が息をしているかのような吹いている風が肌に触り、寒さを醸し出していた…夢なのに。
森林が目まぐるしく変化していく。
緑になったり紅葉になったり…目が回る。
私は淡々とその変化を見ながら山道を歩いていく。
段々と森林が減り、奇妙なオブジェクトをした岩が目に付くようになった。
猿の形をしている。
座っている猿 耳を押さえている猿 口を押さえている猿 目を隠している猿 頭を抱えてる猿…。
太っている猿 痩せている猿、髭の生えていて何処か虚ろな顔をしている猿 赤ん坊の猿…。
様々な体型や姿勢の猿岩像が歩いている私を眺めているような気がした。
そして私は、とある場所に着いた。
段差のある岩が疎らに並んでいて、其処に猿が座っていた。
ざっと50匹くらいはいそうであった。
猿どもは私を見ている。
威嚇などはしてこない。
猿は縄張りに厳しく、入ったら威嚇してくるはずだがこちらを凝視している…監視に近いかも知れない。
周りを見回していると広場の真ん中に大きい縦長の岩があり、その上に異様な猿がいた。
大柄で毛が赤く、そして…目が一つだった。
顔の真ん中に大きな目が一つ、こちらを凝視していた。
私の何を見ているのか…、徹頭徹尾の如く私の身体を睨みながら見続けていた。
そして見終わった後に再び私の顔を見て異形の猿は口を開け何かを言い放ったと思う。
オ〇〇…〇…コ〇…デ…〇〇テ…〇〇…。
ここでいつも起きる。
夢の内容を見ると悪夢のような内容だが、不思議と覚めた後はスッキリしていおり目覚めがいつも良い。
もしかしたら何か吉兆が起きるかもしれないと浮かれていた。
夢占いなど今まで信じるわけがなく、夢なんて自分の深層心理から来るイメージ映像なんだからそこに幸か不幸かなんて天秤に掛かるような…人生に関わるような現実を左右する出来事に影響起こる訳が無い…それは正直今でも思う。
が、あの様な全く今までの出来事…しいて言うならたまにテレビで見る猿山の映像を見たくらいの共通点しか無いのにあの様な異様か異形か…寧ろ神々しい姿と言っても良かったかもしれない…。
私はあの1つ目の朱猿を猿の主様と思い、私にきっと何か良い助言を与えてくれてるのだろうと益々機嫌が良くなってきた。
ただ日々を過ごす毎にその1つ目の猿の主様に辿り着く距離が短くなって来ていたような気がしてきた。
所詮夢なので起きたら憶えてるのは一瞬なので曖昧なのだが確かに森林を抜ける感覚が短くなるようになってきた。
何なんだろうと思いはしたが私として吉兆を呼ぶ吉夢なのだと信じ込んでいたので気にもしなかった。
そしてもう森林を抜けるのが10数歩位になってきた時に偶々、テレビを付けると冬のある猿山の特集をしており、温泉に浸かるニホンザルを見た時に、自分も突発的に温泉に行きたくなり調べると偶然にあの猿山の近くに温泉があり、評判がとても良かっため行くことにした。
もしかしらこれも夢のお告げなのかと浮かれながら準備をして10日後に出発した。
この山は冬景色もとても良く、それを肴にしながら熱燗を呑むのがとても気持ちよく来てよかった満足した。
そして温泉に入りに行くため歩いていた時に、周りに数匹の猿が座っていたので目をやった。
縄張りを意識してるのかこちらを凝視していた。
あの夢の時の目つきに似ていて少し鳥肌が立ったがあの夢は吉夢と断定していたのであの猿の主様のお使いかなと少し気持ちを持ち直して温泉に向かうことにした。
雪が少しつもり、遠目から見た冬景色とはまた別の光景が目に入り続け、少し歩く速さを遅めに道を進んでいた。
しかし目を風景を見るのに意識し過ぎて一つ先の道を進んでしまった。
引き返せば良いものを少し外れた道から行けば着くだろうと軽い気持ちについ、また一つ先の道を進んでしまった。
曲がり道なのでそこからでも着くだろうと。
雪が降り始めた。
少し視界が見づらくなってきて変な道に進んだことを後悔し戻ることにした。
視界が白く、見にくい。
周りの森林が進む度に減っていく。
既視感。
あの既視感。
夢のあの歩く既視感覚。
吉兆…吉夢なのだからいい夢のはず。
もしあれが正夢なら。
温泉に辿り着くはず。
少し歩いたと思い周りを見たら。
あの岩山が沢山置かれている広場についていた。
何処で迷ったのか困惑している。
正夢なのか…なら、正夢なら正夢らしく元に戻れるはず。
焦りを感じた。
足が何故か前にしか進まない。
正夢だからか?
進む…足が止まらない。
ゆっくりと進む。
後ろに引き返したいのに…頭の中では戻りたいのに体が言うことを聞かない。
なんで…なんで
そして…あの夢の中にいた広場の真ん中にあった大きな縦長の岩の目の前に来ると足が止まった。
いた。
あの1つ目の朱猿が…猿の主様が。
私は、あの夢は吉兆を指す良い夢だと思いこんでいた。
正夢なんて思うはずがない。
いる訳が無いものが目の前にいる。
怖い。
怖すぎて震えが止まらない。
1つ目の朱猿は、あの夢のように私を凝視した。
あの時と同じだ。
夢と。
夢と同じだ。
震える私を他所にあの朱猿は、私に向かって何か言葉を発した。
オマ〇…ハ…〇コ…〇…〇〇テ…〇ヌ゙…。
オマ〇…ハ…〇コ…〇…オ〇テ…〇ヌ゙…。
オマ〇…ハ…〇コ…デ…〇〇テ…〇ヌ゙…。
同じ言葉を何度も繰り返していたと思う。
私はここで朱猿が何を言っているのかわかった。
私は今にもここから逃げ出したかった。
そして朱猿が岩から離れた瞬間、先程まで動かなかった体が動くようになり急いで元の道に向かって走り出した。
あんな異様な光景、吉兆の予兆な訳が無い!
悪夢だ!悪夢だ!あの様な妖異の猿が吉兆を運んでくれるわけ無い!
そもそもあの言葉、あの言葉あの言葉あの言葉!
もしほんとなら今日、私は!
雪が降り、視界も見辛いにも関わらず私は死に物狂いで駆け走った。
すると先程見かけた様な道が目に入り私は、安堵で体の力を緩ませた。
あの道の真ん中にあの朱猿がいた。
またいた。
夢と違う場所にあの1つ目の朱猿が。
私は発狂した。
吉兆な訳が無い!吉兆な訳が無い!吉兆な訳が無い!
戻りたくない道に戻ろうとしたがその瞬間、足を崩してしまい転んでしまった。
何故か坂でもないのに転び続けてる。
階段から落ちるように。
周る視界には、猿が沢山いた。
見続けている。
多分、転び続けている私を見続けている。
永遠に転び続ける私を見て嘲け笑っているように鳴き声を発していた。
煩い、煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い。
永遠に続くこの猿地獄に私は、もう笑うしかなかった。
多分ここで狂ったんだと思う。
猿と共に笑っていた
もう何時まで転がり続けていたか分からない。
猿と共に私は笑う。
あははははははは!
猿と共に笑う。
楽しい。
転がり続けているのに。
踊っている。
私は踊っているんだ。
それなら猿も笑うし。
私も笑う。
楽しい、楽しい楽しい。
しかし急に動きが止まり、謎の浮遊感を肌に感じ
た。
落ちている。
私は落ちていた。
何処に落ちるかも分からない。
それでも私は笑っている。
あははははははははは!
笑っていたら一瞬、時が止まった様な感覚に陥り其処には、あの朱猿様がいた。
朱猿様は私に向かって はっきり と私に呟いた。
「オマエ…ハ…ココ…デ…オチテ…シヌ゙…。」
瞬間、私は底に着いた。
グシャ。
世、妖(あやかし)おらず ー夢猿山ー 銀満ノ錦平 @ginnmani
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