第2話 12000

「ウチ来るの? まあ……別にいいけど」


 彼女はウチに映画を観に来ると言った。映画好きの私はDVDを多数所持しており彼女が観たい映画もその中にあったからだ。

 コンビニに寄り、ポップコーンを買う。映画を観る時の必須アイテムだろう。下から火で温めるとポンポン弾けて出来上がるヤツだ。

「他に何か欲しいのあったら買うよ」そう言うと彼女は「お酒も買っていい?」と聞いてきた。

 当時、私はお酒をあまり飲めなかったので「オレはちょっとしか飲まないけど、それでいいならいいよ」と言った。

 彼女は「やった」と小さく声をあげると甘そうなお酒を2、3本見繕い、私が持っていたカゴに入れてきた。

 映画を観ながらお酒を飲んだことはない。彼女と一緒なら、それもまた楽しいのだろうか。


 部屋に着くと、彼女は上着を脱いだ。私は上着を受け取りながら暖房をつける。

「どれ飲むの?」と聞くと「レモンサワー」と彼女は答えた。レモンサワーを彼女に渡して私はキッチンに向かった。


「どこに行くの?」


「ポップコーン作る」


「どうしてもいる?」


「映画観る時はどうしてもいるね」


 少し時間がかかることに彼女は不服そうだった。ツマミだって欲しいだろうに。


「ねえ。どこに座ったらいい?」


「ベッドの上」


 狭い部屋。クッションも置いていないのでテレビ画面を観るとなると、必然的にベッドの上に腰を掛けることになる。

「やらし」と彼女は笑い。ポップコーンに火をかけながら私も笑った。


 ポップコーンが出来上がり私達はベッドの上に座り、並んで映画を観始める。

 内容は……なんだっただろう。アメコミのヒーロー物だった気がする。私は、もう4回目の視聴だったが、彼女は初めて観る作品だ。最初は食い入る様に観ていた。


 やがて中盤に差し掛かると彼女は急に私の足の間に座ってきた。

「え? なに?」と聞くと「寒くて」と彼女は答えた。「暖房。温度上げようか?」と聞くと「コレで十分」とコチラに背中を預けて来た。

 何事もなく映画は流れ続ける。

 彼女は突然振り返って私の顔を見上げると大きな目で私の顔をジッと見た。


「なに?」


「顔が近いね」


「近いね」


「近すぎ……チューするぞ」


 チューするぞ。と言われた。




 うん……




 それはちょっと……

 どうだろう……

 チューはしたい……

 だが……どうだろう?……別に付き合ってるわけでもないし……

 イヤ……言い訳だ。そこじゃない。問題はそこじゃないんだ。

 問題は……


 今……私(まだ童貞)がめちゃめちゃ勃起しているという事実。


 神様。

 私(童貞)には分かりません……


 この甘い雰囲気の中でめちゃめちゃ勃起してるのは……

 アリなのか。ナシなのか。

 女性的には手間が省けると捉えていただけるのか。なんでこの場面で!? と捉えられてしまうのか……

 ただ……私(童貞)は少し違和感がするのです。ここでの勃起が許されるならドラマのキスシーンでカッコつけてる、あのシーン……俳優全員勃起してて当然ということになってしまう……

 教えてキムタ◯……

 ここ。勃起してて、いいシーンですか?

 そもそも、なんでこの子はこんな良い匂いがすんの?

 なんでオレの太ももに手ぇ置いてんの?

 そりゃ無理だって! 勃起しちゃうって! だってオレ(童貞)童貞なんだもん!!


 私は……

 私は黙ってスッと後ろに下がった。(腰を引いた)


 部屋の中の空気が変わったのが分かった。

 以降、無言で映画を観る二人。

 無言で部屋を出て行く彼女。

 部屋で一人絶叫する私(クソ童貞)。




 ────────




 という事が……ありましてね……


 あば……


 あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!


 考えられへん!

 これもう12000セックスくらい逃がしてますわ!

 あの後、めっちゃフォローしたんですけどねぇ……

 無理でした。女心ってヤツはコンビニ弁当とは違うんですよ。 女性ってのは冷めると二度と温め直せないんですね。冷めただけじゃねえ。冷気放ってやがる。

 

 でも、じゃあどうしたら良かったんですか!? 今だに私(二児の父)答えが分かりません。

 まあ、とにかくね。若者の皆さんは悔いがないように生きて下さい。という、そういうお話です。

 

 あと、やっぱりな。夏目漱石。

 お前だけは絶対許さん。

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私、そして君達は一体どれほどのセックスを逃がして生きていくのか ナカナカカナ @nr1156

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