古いレコードが鳴っていた。
窓から差し込む黄昏、静かな古民家。
針が奏でるのは、懐かしい旋律。
けれど、その音には、どこか不穏な違和感があった。
「これは、今まで聴いたことのない音楽ですね」
誰かがそう呟いた瞬間、
この町は、わずかに狂い始めた。
翌朝。
進路に悩む藤本は、いつものように校庭を走っていた。
だがその日、公民館裏のケヤキの枝に、それはいた。
宙に浮いた両足。伸びきった舌。揺れる影。
それは日常という言葉には、あまりに異質だった。
町では、不可解な死が増えていた。
遺書のない自殺が、静かに、連続していた。
そしてついに、
学校ではなく、公園でもなく、山でもなく、
住宅地のど真ん中で、七人が並んで死んでいた。
音楽に心を癒す者たち。
不謹慎に笑い飛ばす高校生。
無愛想な刑事と、異常に気づいた新人刑事。
誰もが自分の生活を続けながら、
少しずつ、取り返しのつかない領域へと近づいていく。
これは、音が狂い始めた町で、
普通の人々が出会う、異変の物語。