第4話 一緒になりましょう
***
玄関のチャイムが鳴ったのは僕が食事をしていた時だ。インターフォンから警察が来たことを知った。
やれやれ、食事を中断させられるのは迷惑だけれど、仕方がない。
扉を開けて対応した。三人の男が立っていた。
男の一人が胸ポケットから黒い警察手帳を取り出すと、
「丸山美幸さんの事でお話があるのですが」
じっと僕の目を見つめた。
「どうかしたんですか?」
「美幸さんが一週間前から失踪して、美幸さんのご家族から捜索願いが出されました。また、彼女の家族や友人からの証言からも、あなたの自宅を訪問しているのではないかと思われまして――」
「はあ」
「あなたの部屋を見せてください」
有無を言わせぬ様子で部屋に上がりこもうとする刑事を僕は拒んだ。
「今、食事中なんですけど」
「令状もあります」
そう言うと二人の刑事が僕の体を押しのけて、強引に玄関から部屋の中へ入っていった。
「やめてください!」
――まだ、美幸の体が残っているのに。
被害者はどこだ、風呂場か、などと言いながら美幸を探している。
僕が美幸を監禁しているとでも思っているのだろうか。だけど風呂場はまだ掃除が終わっていないので美幸の残りがまだ散らばっている。衣類は処分したけれど、髪の毛はどうしようかと思い、頭皮からはがした髪はビニール袋に入れたままだ。
――食事はしばらくお預けかな。
鑑識を呼べ、と一人の刑事が叫んだ。そしてそれに応えるような声。
どんどん、僕の部屋に警察官が入ってきて騒がしくなってきた。10人以上は入ってきた。
そして、しばらくすると刑事の悲鳴に近い、呻くような声が聞こえた。
「お前、ちょっとこっちにこい」
「はあ」
大柄な刑事に引きずられるように僕はキッチンに連れてこられた。
「この大量の肉はなんだ?」
「……」
どう答えたらいいのか分からなかったので僕は無言だった。
冷凍庫の中には小分けにされている肉が詰まっている。上段と下段にきちんとフリージングした美幸の肉だ。大体500グラムごとに分けた。
「ちょっと待て。お前、まさか――?」
刑事の一人がコンロの上にある大きなシチュー鍋を見て、顔色を変えた。どろりとして、濃厚なソースのビーフシチューだ。しっかり煮込んだので肉はトロトロだ。
「……まさかお前、被害者をバラバラにした後、その肉を喰っていたのか?」
「まあ、そういうことです。俺と美幸は愛し合って、一緒になったんです」
そう応えたとたん、そばにいた刑事が急に口から胃の中のものを床には吐き出した。きたないな、人の家なのに。
「お前は被害者を殺した後、風呂場でバラバラにしてその肉を喰っていたのか?」
「まあ、そうです」
さらにどんどん警察官の数が増えてきて、気が付くと僕の手には手錠を掛けられてた。まったく食事中に失礼な連中だ。
「別れ話を持ち出されたからといってもここまで被害者が憎かったのか?」
「はあ?」
この刑事の言いたいことが全く分からない。俺と美幸は愛し合い一緒になっただけなのに。
精神鑑定や、カニバリズム、はてはサイコパスという物騒な言葉が部屋中に飛びかっていた。意味の分からない単語も多かった。
テーブルの上にあるさっきまで食べていたシチューを見た。もう食べられないのか、もったいない。
美幸の肉は柔らかく煮込み料理にしても、フライパンで焼いても愛おしくて美味しかった。もっと料理のレパートリーを増やしておくべきだった。
彼女の肉が僕の胃の中に入り、栄養として吸収されていく。そして僕の血や肉の一部になってくれるのだ。
――僕と美幸は一緒になった。
美幸は僕の体の一部となり、僕たちはで生涯、これで一緒にいられる。決して離れることもなく、常に一緒にいられるなんて『究極の愛』ではないか。
身も心も美幸に満たされて僕は幸せだった。
了
プロポーズの言葉は『一緒になりましょう』、微笑んでくれた最愛の彼女を殺すまでの記録 山野小雪 @touri2005
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