カンニング互助会
否定論理和
カンニング互助会のお知らせについて
皆で協力してカンニングをしませんか?
1人ならバレるかもしれないけどみんなで協力すれば先生の目を欺くのも簡単!
カンペを作る?答えをこっそり教え合う?それとも事前に問題用紙を盗み見ちゃったり?
難しいミッションもみんなで力を合わせたらきっと達成できる!
今なら入会特典として今回の試験問題に限り割引サービス付!
ギリギリ赤点回避コースをご希望の方は1回
楽して高得点コースをご希望の方は2回
互助会への参加を拒否する場合は3回
お手持ちの筆記具を使って机を叩いてください。
カンニング互助会は、新しい仲間の参加をお待ちしています!
ご連絡はカンニング互助会会長、1年B組佐々木まで
……これが、今まさに己の勉強不足を呪い期末試験の問題用紙相手にウンウン唸っている俺のところに飛んできた怪文書だ。
佐々木、というのは俺のすぐ右隣の席に座っているクラスメイトだ。普段は特に目立つわけではないもののクラスのどこにいても自然な、いい意味でどこにでもいそうな普通の女子生徒って感じの印象を持っていた。だからこそそんな佐々木がこんな怪しげな会の会長をやっているというのはイメージに合わない。合わな過ぎる。
思わず佐々木の方を見る。カンニングにならないようにこっそりと目線だけを右に。ちょうど佐々木と目が合った。
無言。当たり前だ、テスト中なのだから。しかし佐々木は何が言いたいのかわからない、しかし明らかに含みのある笑みで口角を上げると、持っていたシャーペンの上下をひっくり返して机を叩くジェスチャーをした。
(決断しろってか……カンニング互助会とやらに入るかどうか)
悩む。確かに赤点は嫌だ。だがカンニングをしたとして、それがバレたらどうなる?
うちの学校の場合、カンニングその他不正が発覚した際はそのまま失格扱いとなってしまい、後日補習になると聞いたことがある。赤点を取るより尚扱いが悪い。
ただし、あくまでもバレれば、の話だ。もしバレなければ赤点を、そしてその先にある補習を回避することができる。
カンニング互助会を信用するなら、今すぐ手にした鉛筆で机を叩けばいい。
俺の下した決断は—―
◇
「おつかれさまー」
テストが終わった直後、佐々木はいつも通りのテンションで話しかけてきた。
「おーよ、誰かさんのせいで余計頭を悩ませるハメになってたからな」
こちらの嫌味に対し、佐々木はあははと軽く笑うだけで流してしまった。この女……
「前回より出題範囲広かったから大変だったねぇ。でも……ほんとによかったの?互助会に入らなくて」
そう。俺は結局あの後机を3回叩いて入会拒否の意思表示をした。
「いーんだよ。どうせ部活やバイトを熱心にやってるわけでもねぇ。補習になったら甘んじて受け入れてやるよ」
「ざーんねん。君ならいいカンニンガーになれると思ったんだけどなぁ」
何やら妙な称号を与えられそうになっていた。本当に入らなくてよかった。
「っていうか互助会、マジでやってんの?俺をからかうために怪文書寄こしたんじゃなく?」
単なるイタズラであってほしい、というかむしろその方が当然だと思って発した問いかけは
「マジだよ?」
いつも通り、普通としか言いようがないトーンの返答に跳ね返された。
「私思うんだよね。学生の本分は勉強だって言っても、将来勉強した成果を活かす職業に就かない人なんていっぱいいるわけじゃない?ほとんどの人にとって学校の勉強を存分に活かせるのはせいぜい大学卒業までだよ。だから互助会を作ったんだ。勉強できなくていい人には最低限赤点の回避を、勉強できる人にはカンペ作成や答えを教えてくれることに対する報酬を、ってすればみんなWin-Winじゃん?」
それは、たしかにそうかもしれない。けど—―
「まあ、それでも、ズルはよくないと思う。自分がどう思うかはさておき、持ち込みやカンニングを禁止されてるってルールは守った方がいい。そうじゃないと不公平だ」
口から出た言葉の真面目さに自分でも驚く。俺はどちらかというと不真面目で怠惰なタイプだと自認していたのだが。
「まあ、互助会は今んとこ入らないけど、先生に告げ口とかはしないから安心しとけ。っていうか言っても信じてもらえないだろうし……」
「はいじゃあノートとかしまってー。机の上筆記用具だけにして—。問題用紙くばるよー」
雑談をしていたらいつの間にか次のテストが始まろうとしていた。色々言いたいことはまだあったのだが、ひとまず棚に上げて今は新しい問題用紙に専念する。
次こそは、ヤマが当たりますように……
◇
「惜しいなぁ。互助会に入ってないの、もうクラスで1人だけなんだけど……いっそのこと、学校全部巻き込んじゃえば公平になるから互助会に入ってくれたりするのかな?」
放課後。静かになった教室。どこにでもいそうな少女のつぶやきは、誰に聞かれることもなかった。
カンニング互助会 否定論理和 @noa-minus
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます