第6話
朝、薫緑はいつも通りに目を覚ました。日の光が窓から差し込むその瞬間、まるで夢の中から抜け出すかのようにぼんやりとした気分で目を開ける。まだ少し眠気が残るが、外の空気が心地よく感じられた。窓を少し開けて、外の音に耳を澄ませると、風の音とともに鳥のさえずりが聞こえてきた。
そのとき、ふと庭の隅が目が留まった。小さな庭に昨日の猫が、のんびりと横たわっている姿だった。薫緑はしばらくその光景を眺めていたが、驚きとともに心の中に暖かな気持ちが広がった。猫は、庭の草の上で丸くなり、静かに眠っている。まったく警戒する様子もなく、ただひたすらに安心しきった様子で、薫緑の家の庭に身を委ねていた。
その瞬間、薫緑は何かが心にぽっと灯るのを感じた。猫の姿があることが、どこかで予感していたように思えた。
薫緑は静かに窓を閉めて、そっと部屋を出て庭へと足を踏み出す。外は少し冷えた朝の空気が肌に触れる。だが、それがまた心地よい。草の上を歩きながら猫の方に近づくと、猫は軽く耳を動かして薫緑の足音に反応し、少しだけ目を開けて薫緑の顔を見た。その瞳には、少しの恐れもなく、ただ穏やかな眼差しだけがあった。
薫緑はそのまま、ゆっくりと猫の横に座り込む。猫は薫緑の手が近づいても特に動じることなく、再び静かに目を閉じて横になった。薫緑はその様子を見ながら、心の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じた。
“昨日、公園に行ってよかった。”
薫緑はそう思いながら、猫をそっと撫でる。その温もりと穏やかな感触が、心を安心させてくれるようだった。
“この子と生きよう。”
薫緑は猫を見ながら、心の中で小さく呟いた。猫が家の庭にいてくれることが、どこかで自分にとっての支えになるように感じた。猫のために、どんなことでもしてあげたい。そう思う自分が、少し誇らしく感じられた。この子を守りながら生きていこう。
“猫のために、もう少し頑張ろう。”
薫緑はそう思いながら、猫にもう一度そっと手を伸ばし、その毛を撫でた。猫はその手のひらを心地よさそうに感じたのか、まるで自分が今、安心していることを伝えるように、うっとりとした表情を浮かべて薫緑の手のひらに顔を押しつけた。薫緑はその感触に微笑みながら、深く息を吸い込んだ。
庭の木々が朝の光を浴びて、静かに輝き始めた。風がその葉をそっと揺らし、世界が目を覚ましたように感じられた。空は澄み渡り、風は穏やかで、全てが一つの調和の中にあるような気がした。薫緑はもう一度、猫の温かさを感じながら、ゆっくりと一日のはじまりを迎える準備をしていった。猫がいることで、少しずつ心に余裕が生まれ、前向きな気持ちが湧き上がってきた。
今日という日が、少しでも自分にとって特別な意味を持つものになるようにと、心から願いながら。薫緑は猫と一緒に静かな朝のひとときを過ごしていった。
終
静かな公園 紙の妖精さん @paperfairy
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