8.最期の時には……

 そんなかわいい夫、おいたんとの生活だって、いつか死が別れを告げるだろう。


 私はガンを患ったし、難病の持病もある。いくらおいたんが年上だからと言って、私がおいたんを看取れるとは限らない。


 でも、おいたんが先に逝くのなら、私には実現したい願いがある。


 おいたんには、最期には「律人と出会ってからけっこう楽しい人生だったな」と思って欲しいのだ。


 おいたんは、とても辛い幼少期や青年期を過ごして来た人間だ。だから現世に未練などないらしい。口癖は「クソつまらねぇ人生。好きで生まれて来たわけじゃねぇ」である。


 でも、私と一緒にいるからには、楽しい事をもっと体験して欲しいのだ。人生だって捨てたものじゃないと思って欲しいのだ。


 私だって、辛い青年期を送って来た。そりゃ、幼少期は幸せそのものだったが、青年期の暗黒具合はなかなかのものだ。


 でも、それでも、おいたんと出会えて、結婚生活を送れて、心底幸せだと思っている。生まれて来て良かったと思っている。


 出来る事ならば、死んだら霊界でおいたんとふたりのんびりと過ごしたい。


 死生観はそれぞれ、人生観もそれぞれなので、ここに異があってもそれは読者様の中で飲み込んでいて欲しい。


 私達夫婦は、あの世の存在を信じている。そこに救いを求めている。


 でも、現世に生まれて来た以上、この世の中で頑張って生きなければならないのだ。


 私は今死んだとしたら、「辛い事も多かったけど、総じて幸せな人生だった」と言うだろう。辛い時期も、おいたんと出会うためだったと思えば許せるというものだ。


 だから、おいたんにも、少しだけで良いから生まれた事を良かったと思って欲しい。少しは楽しい事もあった人生だったと思って欲しい。


 私は、おいたんと添い遂げる事こそが人生の使命だと思っている。


 おいたんと一緒にいると、この世が極彩色に見えて来るが、楽しい事ばかりではない。時には自ら命を絶ちたくなるほど辛い事だって巻き起こしてくれるのがおいたんだ。


 でも、でもね。それでも私はおいたんと一緒にいたいと思う。


 君のかわいさを、ずっと見ていたいと思う。


 小さく丸まって、かわいいおじいちゃんになった君を見たいと思っている。


 だから、共に手を取り合って一緒に歩んで行こう。この世は悪い事ばかりじゃない。きっと救いも、楽しい事も、嬉しい事も、素敵な事もある。


 だから、これからも共に生きよう──。



────了

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うちの夫がかわいくて 無雲律人 @moonlit_fables

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