ドッカーン

白川津 中々

◾️

「癌ですね」


医者から言われたその一言になんと返すか考える。


昔、もし癌になったら「それはガーンって感じですね」と一発かましてやろうと考えていたが、このシチュエーション、恐らく何人もの人間が同じようなセリフを吐いただろう事は長年の経験から予想できる。どうせならこれまでにない、記憶に刻まれるような笑いを残したい。他のネタを探そう。そうだな、ウィットの効いたジョークでも一つ……


「……」


……分かんねぇ。なんだウィットって。気取りやがってちくしょう。あぁどうしよう。なんて言おう。やばい時間が刻一刻と迫っている。間が……間がどんどん悪くなる。と、とりあえず何か声を出そう。


「あ、そうなんですね」


なんだよそれ〜居酒屋で見ず知らずのおじさんから自慢話された時みたいなリアクション〜。

これはあまりにも無機質過ぎる。癌告知されても事実を受け止められずどこか上の空みたいな悲壮感が出てしまっている気がする。なんか俺、つまんない男みたいじゃん。最悪じゃないかこれ。


「ステージ4です。厳しい状態ですね」


あ、新しいネタを出された。時間切れかよクソ。だがチャンスでもある。ここで空気を変えられたらデカいぞ。ステージ4……「あぁ、ボンバーマンでいうとちょうどパワーグローブが出てくるあたりですね」とか……


昔よく遊んだ同級生か!


通じない通じない。絶対この医者ボンバーマンなんてプレイしてない。遊ぶ時間削って勉強してたから医者になったんだよ。偉大な人だよ。あれ、この状況、そんな人が俺みたいな人間に対して真剣に向き合ってくれてるんだ。そんな中、俺は爪痕残そうとしちゃってるんだ。あれ、あれあれ、何やってんだ俺。35歳で人生テキトーに流して、実質の寿命宣告の時にひと笑い産もうとしてるとか、終わってないかこれ。


「……」


なにかこう、急に人生への悔いが湧き出てきた。俺はこれまでいったい何をやっていたんだ。人間としてのステージは上がらないのに癌だけステージ4て……笑えないだろ……俺も、皆さんも……いや、まだ命があるんだ。諦めるわけにはいかない。なんとかしよう。この先を、今を。俺は……俺は……!



「……先生」


「はい」


「俺、残りの人生、"がん"ばりたい思います」


「……ふざけてます?」

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