第53話 新たなる旅立ちへ

 カーネルと別れたロイは、荷物をまとめて街の入口へと向かった。


 街を囲う堀に架けられた橋にはエーデルの姿があり、欄干の上に座って足をプラプラさせてロイの到着を今か今かと待っていた。


「もう、ロイったらおそ~い!」


 ロイの姿を認めたエーデルは、欄干から飛び降りてロイへと駆け寄る。

 両手を広げ、そのまま飛び付くように抱きつこうとするエーデルを、ロイは咄嗟に腕を伸ばして接触を拒む。


「あ~ん、ロイのいけず。でも、そういう素っ気ないところが好き。愛してる」

「はいはい、わかったからとっとと行くぞ」


 それでも諦めずに抱きつこうとするエーデルをどうにか引き剥がし、ロイたちはフィナンシェ王国を後にした。



 行きは豪奢な馬車での移動だったが、帰りは復興作業で送迎どころではないので、ロイたちは徒歩で最初に訪れた港へと向かっていた。


「おっ、今日も頑張ってるな」


 街を出てしばらく歩くと、各所に冒険者の姿が見えた。


 王による冒険者の生活の改善が約束されたが、せっかくここまで開拓した土地をそのままにしておくのは勿体無いと、開拓事業はそのまま継続される事になった。


 だが、魔物化の事件で冒険者の絶対数が減ってしまった所為か、来る時に比べると活気はいくらか落ち着いて見える。


「そういえば……」


 鍬を振るう冒険者を見ながら、ロイが思い出したように口を開く。


「エーデル、プリムはどうだった? 見舞いに行ってきたんだろ?」


 ロイがカーネルと話をしている間、エーデルはプリムローズと会っていたはずだった。


「フフ、大変だったわよ。今日、出発するって言ったらプリムのやつ、自分もロイと行くって泣いて暴れて大変だったんだから」


 その様子を思い出したのか、エーデルが盛大に噴き出す。


 プリムローズはロイとの決闘で肋骨を複数本折られ、全治三ヶ月と診断されていた。

 まだ絶対安静が必要なはずだが、エーデルの話を聞く限り、残されることになったプリムローズは相当無念だったに違いない。


「そ、そうか……やっぱり俺も行ったほうがよかったかな?」

「いいのよ。ロイは毎日お見舞いに行ってあげてたじゃない。どうせまだベッドから出られないんだから、放って置けばいいのよ」


 それにこれ以上、ロイにまとわりつかれたら迷惑だしね。と小声で付け加える。


「え? 何て?」

「ううん、何でもない」


 エーデルは可愛らしく微笑むと、身を翻して嬉しそうに駆け出して行く。


「……やれやれ」


 ロイは苦笑してかぶりを振ると、エーデルの後に続く。



 それから暫くは何事もなく、ロイたちは長閑な道をゆったりとした足取りで進んでいたが、


「ロイ!」


 冒険者の開拓地がかなり小さくなった頃、後ろから声をかけられる。

 声に反応して振り返ると、思いがけない人物の登場にロイは目を見開く。


「リリィ、どうしたんだ?」


 そこには、大荷物を抱えたリリィが息を切らしながら立っていた。

 リリィはロイの前まで駆け寄ると、勢いよく頭を下げる。


「ロイ、お願い! ボクもロイに連いてっていい?」

「連いてくって……開拓地はいいのか?」

「いいんだ。ボクはもう一人だからさ。それより、ロイはまた世界中を周るんでしょ?」

「え? あ、ああ……」


 ロイは以前の救世の旅の時、竜王討伐を優先する余り、初めて訪れる地でも観光はおろか、人との関わりも必要最小限しか行わなかった。


 その所為で救えたはずの人を救えなかったり、街の名所や名物を何も知らなかったりと、世界中を周った割には、ロイは得られたものが少な過ぎることに気付いた。


 だから今一度、冒険で周った諸国を巡り、色んな風土や人々に触れ合ってみようと思ったわけだ。


 その旅に、リリィも同行したいと申し出ていた。


「ボクも冒険者の端くれなんだ。見た事が無いものを見て、会ったことない人に触れ合ってみたいんだ。だからお願い、ボクも一緒に連れて下さい」


 頭を下げるリリィに、ロイは迷うことなく笑顔で手を差し伸べる。


「そういうことなら喜んで。リリィ、一緒に行こう」

「……うん! ありがとう、ロイ」


 リリィは向日葵のような笑顔を浮かべると、ロイの手を取った。


 こうして、リリィを新たに仲間に加え、ロイは新たな冒険へと……世界をよりよく知るために旅立った。

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世界を救った勇者のその後の伝説 柏木サトシ @kashiwagi_314

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