第30話 ダゴンとの戦い

 ダゴン、海の悪魔のボス。


 頭部は膨れ上がったタコを思わせる。

 胴体は人間のように四肢があり、ボディービルダーのように発達した腕と脚、全体的に赤褐色の皮膚を持つ。

 その最大の特徴は、口元から髭のように生えている八本の触手だった。

 触手はぬらぬらと光り、先端には無数の細かい吸盤が並び、まさにダークファンタジーの世界観にマッチした外見であった。


「うえー、タコのモンスターかー。……だが、不覚にもちょっと美味しそうと思ってしまった……」


「うん、私もシズカちゃんに同意かな……。タコ焼き食べたくなっちゃったよー」


『ふははは! 我を喰らうか。……なるほど、人間のほうがよほど害悪であるな。

 貴様らはそうして地球を食い散らかしていった。故に我は許せぬ! その罪、あの世で詫び続けるがいい!』


 ブシュル!


 ダゴンの口から触手が伸びる。


【ダゴンはスキル『八本の触手』を使用しました!】


 伸びる八本の触手。それはまさにタコの触手である。


 太く長く伸びる触手がシズカを襲う。


 ヒーラーが優先的に狙われるのはボス戦ではよくあることだ。

 ヘイトコントロールが得意なテンプラーが居ない今のパーティーだと真っ先に狙われるのがプリーストである。


「おっ! 舐めるなよ、タコ助が! 銀の弾丸を喰らえ!」


 拳銃で応戦するシズカだが、触手に弾丸が命中してもびくともしない。

 粘着質な触手に弾丸はからめとられてしまったのだ。


「げげっ! 触手プレイはちょっとマジ勘弁! ひっ! 嫌ーぁああ!」


 八本の触手は容赦なくシズカに襲い掛かる。

 ヌメヌメのタコの脚の様な触手が、シズカのシスター服の上からねっとりと絡みついた。


「ちょっ! ああん、ヌメヌメはダメ―! キモイー。ひっ! やー! シズネッチ! ヘルプー!」 



 名前:サイレントフラワー

 職業:プリースト

 レベル:30

 HP:210/502 【-292 クリティカルダメージ! 防御力低下、スキル封印のバッドステータスを受けました】 



「大変! おのれー。シズカちゃんを放せー! おりゃー! 葉っぱカッター!」


 鋭い葉っぱがダゴンの触手を切り裂く。


 やはり植物系スキルは水系モンスターへの効果は絶大だった。


 八本の触手は次々と切り落とされ、やがてシズカは開放された。


 ヌメヌメ状態のシズカはその場に倒れた。


「ひー、危なかったよー。

 ……さすがはダークファンタジーの世界だ。やはりタコの悪魔は万国共通でエロい要素があるかー。

 触手がまさかスカートの中にまで入ってくるとは……。

 シズネッチが居なかったら、マジで危なかった。

 ……っていうかこのゲームってR指定どれくらいなんだろう。

 まさか、あのまま放っておかれたら、あんなことやこんな事をされたんじゃ……」


 もちろんR指定は15歳以上であるからシズカが思っているようなことは起こらない。

 スカートの中まで触手が入ったというのはシズカの誤解である。

 そもそも、シズカが着ているシスター服のスリットがそういうデザインであるため、触手が中に入ったと錯覚したのだ。


 ……だが、ダゴンの触手攻撃はクリエイターの悪乗りも多少はあるだろう。

 ネット掲示板の評価ではダゴンの行動AIは女性プレイヤーに対する何らかの歪な意志が感じられると噂レベルではあるにはあるのだ……。


「シズカちゃん大丈夫? 回復しないと……ヌメヌメって回復すると落ちるのかなー」


 もちろん実際に汚れているわけではなく、スキル効果によるエフェクトである。

 バッドステータスの効果が無くなれば汚れは落ち、服は元通りに戻る。


「ごめん、スキルの封印がされてるから回復できないや。あいつは厄介かもね。おのれー、実にエロいモンスターだ!」


「あ、私、状態異常回復のスキルがあるよ。ちょっと待ってて」


 シズネはドライアードの回復スキル『生命の息吹』を使用する。

 シズカは緑色の光に包まれた。



 名前:サイレントフラワー

 職業:プリースト

 レベル:30

 HP:210/502 【+292 HPが回復しました。全てのバッドステータスが完治しました】 



「へぇー、やるー! さすがはドライアード。

 ヌメヌメ汚れも落ちてるし、ドライアードって実はヒーラー向けのモンスターだったんだね」


 モンスターには回復スキルを持つ者もいる。

 その中でもドライアードは攻撃力が低い代わりに、全ての状態異常を回復させる上位の回復スキルを持っているのだ。


 …………。


 葉っぱカッターにより触手を切り取られたダゴンは今も苦しみもがいている。


『おのれー、よくも我が触手を……だが、この海の悪魔ダゴンを舐めるなよ。お前等の脆弱な四肢とは違い何度でも生え変わるのだ!』


 ダゴンの触手はその切断面から、新たな触手が生え変わる。


「やはりそうなるかー。あれは厄介だ、何とかしないとね……半裸のシズネッチが喰らったらそれこそ絵的にまずい!」


 ダゴンの触手攻撃は今度はシズネに向けられる。


「くる! 葉っぱカッター……はこれ以上は使えないかも……うーん。ツルのムチだー! おりゃおりゃおりゃー」


 シズネの両腕からツルのムチが伸びる。


 皮肉にも両者の武器は似たような形状。

 タコの触手と直物のツルがお互いに絡まり合う。


 膠着状態だ。


「ナイスだシズネッチ! おいタコ助やろー! これでも喰らえー!」


 シズカはセプターを握りしめ、大きく振りかぶるとダゴンの頭部に思い切り振り下ろした!


 ……だが、鈍器によるダメージは効果が低い。


「くっそー。いまいちだ。こいつ全身もヌメヌメでセプターが滑っちゃうよ、この変態タコやろーが!」


『ふっ……変態とは失礼だな。せめて軟体といってもらおうか?』


 続いてダゴンの反撃。

 触手は使用できないが体を柔軟に捻ると回し蹴りの反撃がシズカを襲う!


 シズカは体を大きく仰け反り、ダゴンの蹴りを紙一重でかわす。


「おっと! あたしだって空手部の元エース。このあたしに蹴りを当てようなんて百年早いっしょ!」


『……ほう、我が蹴りをかわすとは、少しはやるようだな。……よかろう貴様らのお遊びに少し付き合ってやるとするか……』


 ツルのムチによって絡められていたダゴンの触手が、その根元から切り離された。


「げげっ! トカゲかよ! 触手を切り離すタコなんて聞いたことないっての!

 でも馬鹿な奴、いかにヌメヌメボディーとて触手が無ければ怖くない。至近距離の銃撃を喰らえ!」


 シズカは拳銃を取り出すと銃口をダゴンの頭部に向ける。


 パンッ!


 ……だが、拳銃の弾は当たらなかった。

 拳銃を構えているシズカの手首が、ダゴンの手刀の一撃により弾かれたのだ。


 そして、まるでカンフー映画のように、静かに背筋を伸ばし構えを取るダゴン。

 最強の武器である触手を自ら切り落とした、だがその四肢はたくましい筋肉に包まれており、まるで格闘技の達人のようだった。


 ダゴンは左手を腰にあて、右手を前に突き出す。

 そして手の平を捻るとシズカに手招きをするかのようなポーズをとる。


『来るがよい……人間』


「……へぇ、やるじゃん、あたし好みの展開だ。行くよ!」


 パンッ! パンッ! パンッ!


 シズカは再び拳銃を発砲する。

 ダゴンの頭部に狙いをつけて発砲するも、わずかな時間差をダゴンの手刀でさばかれ、放たれた弾丸はダゴンの頭部をかするのみだ。


 シズカは続けて発砲するがダゴンの体術スキルは高い。

 銃の一撃をかわすダゴン。そしてダゴンの頭部を狙うシズカ。

 膠着状態に思えた。


 だが、シズカはその隙を突き、ダゴンの脇腹を思い切り蹴る。


 プリーストには回復スキルの他にも体術のスキルがある。

 多くのプレイヤーには必要がないスキルではあるが、ロマンを求めるごく一部のプリーストのプレイヤーの中には格闘スキルを習得する者もいる。


「どうよ、あたしのキックは! 油断したんじゃない?」


『ぐうっ……』


 ダゴンの不気味だが終始冷静な顔は、今、苦痛に歪んだように見えた。

 確かにダメージは通っている。


 だが、同時にシズカの太ももがダゴンの手に捕まる。

 ダゴンの手の平は触手と同様に粘液に覆われていた。


「ひっ! ヌメヌメ! キモい手であたしの脚に触るなっての!」


 パンッ! パンッ! パンッ!


 シズカの銃撃。

 ダゴンはシズカの脚を放すと、上半身を仰け反らせ弾丸をかわす。


 次の瞬間、シズカがしゃがみ込み、足払いをする。


『ちっ!』


 ダゴンは地面に倒れる。


 シズカは拳銃を構え、地面に転がるダゴンに容赦なく放つ。


 だが、寝転がったダゴンは両足を広げ、体を回転させながら蹴りを放ちシズカの拳銃をそらす。

 弾丸はまたしてもダゴンには命中しなかった。


 …………。


「ふぅ、やるなー。まさかカポエイラを習得してるとは。

 あたしだってカポエイラ教室に行きたかったのにー。ママが反対したばっかりに……」


『ふん、貴様もやるな、たった四本の手足をよく使いこなしている。

 ……だが遊戯は終わりだ。我はダゴン。海の支配者である! 故に貴様は八本の触手で弄ばれて死ね!』


 ダゴンの口から再び八本の触手がシズカを襲う。


 シズカは間一髪それを交わす。


「おっと、それは一度見た攻撃、二度と通用しない!

 それに……そろそろ時間だし? あたし達も遊びは終わりってねー。シズネッチ!」


「まかせて! おりゃー!『ツルのムチ』からのー、スキル『束縛』!」


 ドライアードのスキル、束縛はツルのムチをロープの様に使い、敵をがんじがらめにして行動不能にする補助スキルである。


 植物属性が水系モンスターに対して優位であるため、ダゴンの触手は本体もろともドライアードのツルで見事に束縛されてしまった。


『ぐぬぬ、おのれー、我を束縛するとは……この屈辱……おのれー』


「ふふふ、まあ、あたしは楽しかったよ。

 あんたのカポエイラはカッコよかったし? あたしも勉強になった。

 ……まあヌメヌメは駄目だけどねー。

 シズネッチ、どうよ、そろそろ葉っぱは回復した?」


 そう、シズカはシズネの葉っぱカッターの残弾が回復するのを待っていたのだ。


「いくよー! 葉っぱカッター! 連続発射だ! おりゃー!」


 カミソリのように鋭い無数の葉っぱの嵐がダゴンを切り刻む。


 シズネの葉っぱのドレスはミニスカ程度に回復していたが、あっという間に際どいマイクロビキニに戻ってしまった。


 だが連続で打ち出された葉っぱカッターによりダゴンは絶命した。


【おめでとうございます。ダゴンの討伐に成功しました】

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ヘルゲートアヴァロン ~エッチなモンスターでダークファンタジーを攻略します~ 神谷モロ @morooneone

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